拙者は出不精だけど、飽き性でもあって、こんちくしょうだ。
ランニングを趣味としているけれど、同じ道を走るのは飽きてしまう。だから旅先でランニングしたいと思うのだが、旅に出るのは面倒だ。

この面倒くささは、現代病だろうか?
ネットを開けば娯楽が溢れているから、わざわざ得体の知れない場所に赴くのは合理的ではない。
動けばガソリンが消費されるし、金も減る。やめとけやめとけ、家にいとけ。近所を走っとけ。
「はいそうします!」
と、いつもは思うのであるが、今日は違った。3連休のあと2日は雨予報。今日しか行けないという気持ちが心を駆り立てる。

2022年10月8日(土)、曇のち晴れ。
11時を過ぎてから家を出た。ぶらっと宇治茶でも買いに行こうというテンションで。
知ってる道をバイクで駆ける。ほとんど前回の旅ランと同じルートだ。茶畑も、急な山道も、こないだ通ったばかり。慣れた感じで鼻歌を唄う。江州音頭の一節を。

少しだけ迷いつつも、概ね正しいルートだった。間違っていたのは服装だ。急に寒くなったせいで、装備が間に合ってない。足が震えだした頃に目的地に着いた。およそ1時間半の行程。

月ヶ瀬温泉。
京都府の南山城村を越えてきたのは知ってるが、ここが奈良県か三重県なのかは気にしないでおく。

直売所があるので、こそっと入る。
お茶が売っていた。製造者の名前入り。京都府を越えたので、もう宇治茶じゃないようだ。
拙者は愛国者であるし、エコロジストでもあるので緑茶を飲みます。コーヒーは控えることにした。
だが悩む、産地らしくたくさんの緑茶が売っていた。どれを選べば良いのかまったく分からない。
昔、福寿園の方に聞いたのですが、福寿園などの販売者は色んな生産者のお茶を集めて、味を見極めて、それをブレンドして福寿園の味にするそうです。
だからきっと、どれを買ってもワイルドに近い味なのかな、と推察する。

買いました

今からランニングするので、よもぎ餅を食べる。

柔らかくて、美味しいやつでした。とろりと溶けた。

さて、ジーパンや上着を脱いで、いざランニング開始。
観光案内板が豊富なので期待できる。
まずは梅渓なるものを目指す。

1.5km走ると、月ヶ瀬のメインコンテンツたる梅渓に行き当たる。
なかなかすごくて、梅林と渓谷のコラボ。急斜面に梅林があるので、景色の奥行きがスゴイ。

梅の木がそこかしこにあるし、その奥には山あいを流れる川。名張川というらしい。
2月か3月あたりに来るべき場所ではあるが、人間には想像力があるからな、心のなかで梅の花を咲かせれば良いのです。ほら、白やピンクの可愛い花が咲いている。

ここらで、地元のおばあさんと喋ったのですよ。
「こっちの端っこのほうが、よく見えるで」と、声をかけられた。
ばあさんのおっしゃる通り、遠くまで見通せた。
あれは、鈴鹿山脈で、あの山の下にスズキがある、などと聞いたけど、聞き流しておいた。他にも、茅葺屋根は伊勢湾台風で飛ばされたとか、この展望台は200万したとか、NHKが猫の撮影で3日間も取材に来た、などと聞いた。
最後には、
「嫁はまだか」と、言われた。
「ええ、まぁ」と、答えた。
「今度は女の子を連れてきい」という言葉に、「そうですね」と拙者はヘラヘラ笑って、走り去った。
絵になる場所の、絵に描いたようなばあさんだった。

拙者は走る。咲いてない梅林を駆け抜ける。ランニングコースとしてはかなり面白い。古くからの名勝らしく、観光地の面影を感じる。
梅の頃に来たら、走れないくらいの人出なのだろうか?
今は人出がなく、一部の道はくっつき虫やクモに阻まれていた。

坂を下り、一気に高度を下げて、川沿いに出る。
橋が赤いのは、観光地の色気だろうか。

これを対岸に渡り、車道を走る。歩道はないけどフラットな道。歩行者専用散策路がなく残念だったが、車通りが多くはないので良いとしよう。なぜかやたらと東屋が多い。梅の頃は花見で賑わうのだろうか。

これなんか、すごく良さそうに見えるけど、さほど良い景色ではない。枝の剪定が必要だ。
建物自体が前時代の遺産ってことにしておこう。

デカさ自慢のカボチャ。持ち上げられない重さ。

こちらにも直売所があり、ライダーやドライバーの休憩で賑わっていた。

この旅で、唯一のランドマークだったのは「龍王の滝」だろう。
龍王ですよ、ドラゴンキングですよ。ドラクエならばかなりラストに近い場所でしょう。
絶対行かねばならぬ、龍王の滝に飛び込んでこそ真の勇者じゃ。
と、喜び勇みました。

老夫婦が杖をついての散策中だった。
老夫婦でも行ける龍王の滝は、果たして龍王の滝なのだろうか?
拙者は飛び込むのをやめた。

そして、折り返す。これが6kmくらいの地点。
戻りの道は、来た道の対岸。
「もみじの小路」と題された散策路を通ったが、まだまだ青々としていた。そして東屋ばかりが多く、相変わらずランニングには最適だ、だけど誰ともすれ違わない。
大会とか実施されたりしないのかな? などと空想する。

梅干しなどを売るお店、老舗感がすごい

自分にしか見いだせない地域の魅力ってないかな?
やはり梅しかないのかな?
などと考える。
バスが通った。
乗客はいなかった。
JAのミニスーパーは閉業していた。

メタバースとか仮想空間とか必要ないと思うんだよな。
だって、現実世界で場所が余ってますよ。
仮想空間でゲームするより、フィールドを使ってもっと遊べる方法を考えたいよな、と思う。

元の温泉施設に戻ってきた。足での走行距離は11kmほど。
周辺にはキャンプ場が整備されていて、多くのテントが張られていた。
ファッション的なキャンプは好きじゃないけれど、フィールドで遊ぶ点は評価すべきところだな。
ブームになってるキャンプで人を集めながら、周辺の観光や楽しみ方も伝える施策が必要かと思った。

ちなみにここの温泉施設はとてもきれいで、泉質も良かったです。
通常700円ですが、100引きのクーポンなどが出回っているようで、600円で入泉可能。京都市内の銭湯は490円になっているので、お得だ。オススメできる。
少し冷たさを感じる外気の中、ぬるめの露天風呂で贅沢な時間を味わった。
よく家を出てくれた、11時の自分、ありがとう。

以上で旅は終了です。
もと来た道をそのまま帰りましたとさ。

季節が激変し、バイクで走るのは寒くなって、家から出る億劫さに拍車がかかるかな。
出不精な我に、旅立つ勇気を与え給え。
我らの旅はつづく!

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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