目を閉じて、その子のことを思い返してもまだ好きでいれる。
だけど拙者はフラれたので、これは情けない話である。

普通の男性はフラれた話など大っぴらに語らないのだけど、拙者はフラれたストーリーを書かせれば日本一の称号を目指しておるし、意外にこういう話は女性からのニーズが高いと、うすうす感づいておるので、これから堂々と語りたい。

もう5年くらい前から好きだった女の子を呼び出して、意を決して告白したけれど、「もっと早く言ってくれたら良かったのに」と断られた。
というような話であれば、悲壮感を漂わし、拙者の心理描写を書き尽くしたいのだけれど、そういう話ではない。

「好き」にはグラデーションがあるし、そこそこ大人になっているので恋心は育てるものだと知っている。
20代の頃は頻繁にメールを返してくれる女の子をことごとく好きになったものだが、今では長々とメッセージのやり取りをするのが面倒くさくなってしまった。
昔は「ちなみに好きな食べ物は何ですか?」などと、疑問形のメールを文末に加え、その返信にまた疑問形で返し、やり取りが途絶えない工夫をしていたのに、今では何の工夫もせずに、やり取りが続かないから相性が悪いんだなぁと解釈している。

要するに、無理してパートナーを得ようとか、恋愛しようとか、そういう気持ちは霧散した。

そんな中でも、可愛い~と鼻の下が伸びてしまう子やお気に入り登録したいような子もいるし、よい機会があればご飯など食べてお喋りしたいという気持ちはある。
とまぁ、一葉ちゃん(仮名)もそんな感じだった。

先日、ご飯を食べに行ったところ、男女の関係を持ち込まれては困る、というような感じで、フラれたのだ。

その日、某中華料理店で落ち合った時点で一葉ちゃんの表情が重くて、ぜんぜん愉しそうじゃなかった。これまで2回ほどランチをご一緒して、その時は和気あいあいとお喋りし、時折見せてくれる笑顔に拙者は喜んでいたのに。

おかしいなと思いつつ、いつもの軽い雑談を一方的にしながら食事をし、そして食べ終わった頃、意を決したように一葉ちゃんは重い口を開いた。
「前回、『二人きりで遊びに行くようなことに誘っても差し支えないか』と聞かれて、安易に『はい』と答えてしまいましたけど、あれって、異性としてのお誘いだったんですか? 友達としてなら良かったんですけど、あの後いろいろ考えてしまって……」
これを聞いた拙者はアタフタした。
好意はあるよ、単純な友達として見てるわけではなく異性として見ている。しかし好意のあった女性と友達関係が続いてる経験もあるし、貴方が望まぬのならこれまでと同じ関係でいいし。そもそも好きな子しか食事に誘わんけど、そういうのを加味して貴方に最適な距離を保ってくれたらいいのに。
というようなことが頭の中に巡ったはずだが、その時に最適な言葉が見つからず、
「好意はあるけど、分別もあるよ」
と口から出た。
でもこれはダメだったみたい。
一葉ちゃんは好意があるならその気持には添えないと、関係を切る覚悟を決めておられたらしく、その後の態度も受け答えも全部、関係を切ってスッキリしたいとの強い意志が感じられた。
拙者は、これで終わりか、と察して、一葉ちゃんのどんな所が好きかをお伝えした。
もちろん彼女の気持ちが変わるはずもなく、むしろ悪化し、つれない態度の彼女を駅まで見送った。

こんな風になるなんて、ぜんぜん心の準備ができていなくて、急に感情が忙しくなった。
風光明媚な観光地に独り残され、そこはかとなく哀しかった。
快晴の空を見て一旦心を落ち着かせ、メッセージを送ってみたけど、「距離を置きたい」とのことで、『置くほど近い距離じゃなかったやん』とか言いたいことはあったけど、貴方の望みがそれならば叶えてあげるのが男の役目だ。

こうしてフラれました。
無念。
笑顔を見せてくれるだけで良かったのになぁ。

しかし、よくよく考えると、若かりし頃の拙者も女性からの好意を感じた時は、あえて冷たい態度をとったこともあったよな。
それは相手を傷つけてしまう怖さゆえ。
期待に応えられないストレスも生まれる。
分かる。

ちなみに最近の拙者は、誰からも好意を向けられないのでストレスフリーです(笑)。

最後に一つだけ言わせて欲しい。
関係を切るかもしれない相手と直接会って喋ろうとするなんて、一葉ちゃんはとても誠実で良い子でしょう。
きちんと伝える術を持っていて、素晴らしいよね。
そんな子を好きだと思う拙者の女性選択眼もまた、素晴らしい。
自分を袖にした相手を矮小化せず、好きなままで距離を置こう。

恋人にフラれたわけではないので、心の空洞は小さくて、全ハートの8分の1くらいの隙間かな。
この隙間に何が入ってくるのか、楽しみにしとく。

以上。

ちなみに仮名の一葉ちゃんは、樋口一葉から拝借しました。
さっき、「にごりえ」を読んでたんやけど、女心くらい難解な文体だった。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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