自己紹介の番が回ってきた時、とっさに言った。
「石黒です。京都市内の伏見から来ました」と。
しまった! と思った。
なぜならば、家から1時間半もかかる山間部であるが、花背も同じく京都市だ。京都市内とつけるのは余計だし、失礼だったかもしれない。
輪になった20人ほどの人たちの中には、『ここも京都市内やで』と不快感を抱いた人がいたかもしれない……。
こんな風に繊細さんを発揮してしまうのは、アウェイだからである。仲間に入れるかどうかの瀬戸際だからである。
というのも、最近、わな猟免許を取得したのであるが、狩猟に関しては何も分からない。免許を得たからといって、さあ行こう、とはならないのがこの資格である。
仕掛け方を知らないし、仕掛ける場所も知らない。
しかし、ひょんなことから(参考:花背のことは話せばわかる(2)狩猟と養鶏)狩猟をやってる方とご縁を頂き、よければグループに入るか? とお誘いいただけた。
そして猟期が始まる前に、2つほどイベントがあるらしく、参加を促され、二つ返事で行きますと答えた。
ちかごろ思うところとしては、世の中はそこそこ徒弟制度で成り立ってるよなって。独学ってのは効率が悪いかもしれんって。
これまで学校教育の中で育ち、教科書に書いてあることが全てだった。その後はPCの操作を憶えたらだいたいスキルがあるとみなされ、テキスト化・マニュアル化の中で生きてきた。
だから師匠は必要なかった。
しかし、テキストやマニュアルでは微妙なニュアンスが伝わらなくて、そこで間違えたりするんだよな。
あるいはAIが発達し、テキスト化・マニュアル化された技術を憶えることの価値が低下しているのかもしれん。
今後は、知識のほか、体の動かし方、固有の場所の情報など師匠に可愛がられないと教われないようなことにこそ価値が出てくるんじゃなかろうか。
てなわけで、狩猟の師匠に気に入られるべく、媚び媚びモードを発動したのである。
2024年10月12日のこと、師匠が講師になる「採蜜ワークショップ」なるものに参加した。
何をするのかよく分からないまま参加したのであるが、とにかくニホンミツバチの蜂蜜はフルーティーで美味しかったのが印象的だ。
さらっと企画の流れを説明しよう。
午前10時に集合。場所は道路を入った高い草が生えるアウトドアフィールド。森に入る手前、人と野生との緩衝地帯のような場所。
そこに20人ほどが集まり輪になって自己紹介。狩猟のメンバーや、地域の人々、企画の運営者、実習プログラムに参加したの大学生がいる。地域の人々の中には3組ほど子育て世代がいて、幼児から小学生くらいの子どもたちもいた。
近くに大型動物用の箱罠、要するに鹿とか猪とかを捕まえる檻があり、そこに蜂の巣箱が置いてある(ちなみに前日から朝にかけて熊が巣箱を獲ろうとした形跡があったようだ。)
これを見学した後、巣箱を広い場所に運び、巣箱の中の蜂の巣を取り出し、更に蜂蜜を取り出す。
アウトドアフィールドでの作業が終わったら、古民家に移動し、お弁当を食べ、パンケーキを焼き、とれたての蜂蜜をふんだんにかけて食べる。
以上、テキスト化するとシンプルな企画だ。
テレビとかではなんとなく見たことがあった養蜂であるが、実際に現場で見るのは初めてで、もともとほとんど興味がなかったのだが、山の恵を少し頂く方法は魔法みたいに思った。
古ぼけた木の枠から黄金の密が出てくるんだもんな。
というのは、家に帰ってからの感想である。
現地では久しぶりに媚び媚びモードの自分が出現して、滅私奉公していたので、次は何をやるべきか? 今は誰に話しかけるべきか? などと忙しくしていた。
新しいコミュニティに突撃していくのは、議員秘書時代に何度も何度も経験したので、プロの技術を持っていて、率先して動いたり、良い質問をしたり、小粋な感想を述べたり、初対面の人と打ち解けたっぽく会話をする、など熟達している。
でも最近は、できるだけ自分のままで人と接して、仲良くなれた人とだけ仲良くすれば良いやーと思って生きてるから、媚び媚びモードは出てこないんだよな。
それはそれとして良い人間関係の中で生きているが、久しぶりに媚び媚びな自分を観察して、これはこれで磨かれた技術だよなと、誇りに思った次第。
まぁ、技や力を使うとそれなりに疲れるけど、こっちの方向の自由さのほうが好きなんだよな。気心知れたコミュニティの中でワガママに振る舞う自由さよりも、コミュニティを移動する自由さが好き。
ちなみに今回のコミュニティに対する感想としては、老若男女が揃って活動して、理想だなって思った。70代から0歳児まで各世代が揃っていたと思う。
こんな山間部にこうやって各世代が揃うことがあるのか? と感動を憶えたが、むしろ都心部の方が世代が細分化されて、つまんなくなってるのかもしれない。
古民家の縁側から秋晴れの空と山の稜線を見ながら、「こんな駅も近くない場所に沢山の人が集まるのは素晴らしいよね」と言った。
隣にいた中学生の男の子は「そう思います」と答えた。
ちなみにこの男の子は拙者の兄弟子なのである。
そしてまた、10月中にこのコミュニティにお邪魔するので楽しみだ。
10月27日(日)10:00~15:00、「別所井戸端展」というイベントが開催される。
花背の別所集落の回遊型のご近所まつりというような感じだ。
興味があれば、出かけてみて。
拙者もおります。
以上。
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