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    郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【3.名古屋駅足止め編】

    情報が出揃った後ならば最適な決断ができるが、情報は生ものであり刻々と変わるし、伏せられている情報も多い中で、決断せねばならない。
    台風による名古屋駅での足止めは、そういう修行のようだった。

    これは、郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【1.拝殿おどり・白鳥おどり編】【2.郡上おどり編】の続きである。

    台風が接近する中で名古屋駅には滑り込めたが、そこから京都に帰るあらゆる公共交通機関が運休していた。また、周辺の大型商業施設も臨時休業だった。

    すべての情報を知っていたならば、まずはネットカフェに直行し、24時間滞在コースを申し込み、休める場所とコンセントといつでも使えるシャワーを確保し、それから町をぶらついたであろう。
    だが、あらゆる情報をこの時の拙者は知らない。
    また、問題も抱えていた。
    ・徹夜おどりの後で汗をかいたままだ
    ・スマホの充電がどんどん消費され、充電器も持ってきていない
    ・夜を明かすことになるなら、どこを寝床にするか?
    ・夜を明かして何で帰るのか?
    ・旅費が潤沢というわけでもない
    ・大文字サイレント盆踊りには間に合うのか?
    さてどうするか?

    名鉄の名古屋駅を降り立ったのは7:30頃だったが、拙者は名古屋駅の構造についてまったく知らないし、とりあえず周辺を歩いて情報を得てみた。街は緊急事態の様相で、高速バスも各鉄道も運休しているのが分かった。
    駅のキヨスクは開いていた、ありがたい。とりあえずおにぎりを買った。飢えることはないと知って安心した。

    拙者はとにかく歩いた。ちょっと座っておにぎりを食べ、思考できる場所を探した。
    地べたに座っている人をちらほら見かけたが、拙者はすぐに座り込みたいほど疲れてはいないし、好奇心は存分にあった。
    JPタワーの周囲は何かとキレイで、ゆったり座れるシートを見つけた。この後この場所には何度かお世話になる。

    おにぎりを食べた。
    こうすることで気持ちが場に馴染む。
    近くにいたオジサンに声をかけた。
    「足止めされてますか?」
    「はい、大阪に帰りたかったけど、とまってるね」
    「動きますかねぇ」
    「今日は泊まりかな」
    などという会話で現実感が湧いて、問題に対処する気持ちになった。

    雨脚は強まっている。
    スマホで周辺のネットカフェを検索した。
    なにぶん土地勘がないので、現在地・方角の感覚が分からない。
    最も駅から近いネットカフェは駅の反対側のようだった。
    名古屋駅はおおむね南北に線路が走っており、街は西側と東側に分かれている。
    東側から西側へと歩いた。
    東側も閑散としていたが、西側のエスカ地下街もシャッターばかり。唯一ドラックストアだけは開いており、歯ブラシと歯磨き粉を買った。地下街共通クジの補助券を渡されたが、店員さんも「意味ないかもしれませんが……」と恐縮そうだった。

    ネットカフェにたどり着くと、すでに多くの待ち人がいた。
    店員の女の子が言う。
    「現在、満室でお待ちいただいております。どのくらいお待ちいただくかは分かりません」
    拙者はこういう時に待てないタイプである。こうして不正解を選ぶのである。
    シャワーを浴びたいんやけどな、と呟くと、
    「シャワーはすぐにご案内できます」
    とのこと。
    30分300円で貸してもらった。
    こういうサービスがあるなら、都心部でランニングしてもさっぱりできるなー、と新たな知見を得た。

    シャワーから出て、店員さんに
    「たとえば、今日の夜8時からって予約できますか?」
    と聞いたら、なんだか手書きの表を見て、ムムムと表情を変えて、アカンのかな? と思ったが、控室に入って、戻ってくると、
    「受付できます」
    できんのかい。
    これで、寝床の心配はなくなったし、キャンセルも簡単そうだし、シャワーでさっぱりしたし、元気になった。そんな気がした。

    そのテンションで、また名古屋駅を徘徊する。
    駅は閑散としてるから鬼ごっことかしたらオモロイかなー、足止めされてる人を集めて人狼ゲームとかやってもいいなー、などと考えたが、そこまでの体力はなかった。
    本当に欲していたのは居眠りできる場所だった。

    足止めされても楽しみたいと思って、喫茶店に入ったり、持ってきた文庫本を読んだり、雨脚が弱まったタイミングで外に出てみてサイゼリヤに入ってみたり、食事をした後ウトウトしたり。
    そんなことをしているうちに時間は午後になり、スマホの充電が僅かになってしまって、危機感が募った。
    右も左の分からぬ場所でスマホが使えなくなるのはキツイ。情報戦の最中なのに。

    再び歩き、ドラックストアでケーブルを買って、レンタル型のバッテリーを借りてみたりもした。
    あまり急速充電はできないようで、10%だったのが30分で22%くらいになった感じだったかな。

    勢いよく流れる雲を見ながら閑散とした街を歩いてみると、足止めされているのは日本人より外国人が多かった印象。これは日本人は移動を取りやめたけど、旅行中の外国人は移動を取りやめたからといって帰る場所がないからだと思う。
    周辺は海外のターミナル駅みたいだった。

    すえすけさんから電話をいただいた。
    車で無事に帰宅したことや、その後にあったことなどを聞き、良ければ迎えに行くので我が家でシャワーやスマホの充電をしては? とご提案いただいた。親切な人である。
    しかし、だいたいは解決済みであったし、もしかしたら交通が復活するかもしれんと一縷の望みを抱いていたし、それは辞退した。

    夕方が近づいてくる。台風は遠いようで風雨の心配は無くなり、拙者は範囲を広げてぶらついてみる。もともと街への好奇心が強く、体力もあるので、こういう行動をよくとる。
    かなり名古屋駅への理解が深まってきて、東側は高層ビルが多く整ったイメージだが、西側はやや雑多なイメージ。
    雑多な方をぶらぶらすると、立ち飲み屋が開いていて、入りそうになったが、今はダメだと自分を律した。座るべきだと思った。
    小さなホテルのロビーにあるカフェスペースはコンセント使用可なのが外からでも分かったので、そこに入って値段のはる缶ビールを飲んだ。充電は進んだ。

    こういう時でも仕事のメールが入ってきて、面倒くさいと思いつつ、暇だから良いかと対応したりする。
    充電も満ちてきたので交通の情報を得てみる。
    近鉄の一部路線が動き出したようであった。
    高速バスの情報も見てみると、翌日の便は予約可能になっていた。しかし、席数は僅か。近鉄で帰れる可能性もあったが、高速バスは争奪戦だろうと思ったので、予約を入れた。

    動いているかもしれない近鉄の改札に行ってみる。
    たしかに途中までは復活していた。しかし京都まではまだだった。
    早めの夕食を食べ終わった後に、再び近鉄の改札に行ってみると、どうやら京都まで帰れそうなルートがあった。
    ここで、エイ! と決断すればこの日に帰れた訳だが、初めての路線で、居眠りして乗り換えをミスる可能性もあるし、高速バスもネットカフェも予約済みだし、この線はやめておいた。
    とにかく、高速バスの予約再開も近鉄電車の路線復活も何の通知もしてくれないし、情報戦を実感した。緊急時は色んなものが野性味を増す。

    夜の8時、ネットカフェに行きようやく小さな安住の地を得た。
    リュックの中に入れていた浴衣や手ぬぐいや靴下が、汗臭いまま湿っていて、旅先の不自由さを実感した。帰れていたらこんなことにはならないのにな。
    漫画もネットも見ず、緑茶だけをいただいて、リラックスして、横になった。
    ちゃんと眠る場所でもないし眠りは浅いが、くつろげてはいた。
    途中でめちゃめちゃ寒くなって、空調のコントロールを覚えたり、ブランケットを追加で借りて、また眠ったりした。

    しかし深夜、めちゃめちゃうるさくするヤツがどこかに来た。電話で喋ってやがって、こっちの部屋にまでかなり響く。
    男の声、おそらく20代。
    どこから聞こえてくるのか特定できなくて、横か、ドアを挟んだ前か、それとも上の階か?
    でも、いい機会だと思って、とりあえずはシャワーを浴びに行った。
    その段階で、隣の部屋から聞こえてくることがわかった。

    シャワーから戻っても、まだ喋っていて、拙者はやや不機嫌になって、どうしよかなと、ロビーに通話して隣の人がうるさいので注意してくれと言うのが正攻法だろうな、しかし店員さんも仕事が増えて面倒くさいだろうな、不愉快なのは拙者だけかもしれんし、正攻法だけど最短ではないよな、と思っていたが、急な足止めで疲れてもいたし、体調が万全でもなくて、急にブチギレスイッチが入ってしまった。
    まずは自室の壁をドンドンドンと勢いよく叩く。
    それでも怒りは収まらないどころか、怒りのダムは堰を切った。
    ドアを出て、隣の部屋をノックする。
    コンコンコン。コンコンコン。
    「はい」などと、部屋から声がする。
    それでもしつこくノックする。
    コンコンコン。
    そして、鍵を開けさせ、扉も開けさせた。
    拙者は怒鳴らない。周りに迷惑になるからだ。あくまでも静かに低い声で言う。空調のせいで喉はガレガレになっている。
    「分かるか、うるさよ」
    相手は、すいません、と言う。
    小太りの売れない若手芸人みたいな見目だった。
    「電話したいんやったら、階段の方に行ったらいいんちゃうか」
    拙者はすごく紳士的である。代替案まで提示する大人の対応である。
    相手は、すいません、すいません、と言う。
    相手の目には恐怖の色が宿っていたので、それ以上は必要なかった。拙者はそのまま部屋に引き換えした。
    当然のごとく、すぐに静かになった。
    部屋の鍵を開ける時点で恐怖だっただろうな。ネットカフェの逃げ場のない小さな部屋に押し入られたら、どうしょうもないもんな。
    こうして、コミュニケーションによって問題は解決されたし、不躾な若者は周りに配慮する心が宿ったことを期待する。

    ちなみに拙者はカラオケ屋でバイトしたことがあって、ノックは3回と教えられた。こういう時においてもその教えを守ってしまうのが、けなげで、少し悲しくなった。

    朝の7時、アラームがなる前に起き、チェックアウトして、牛丼屋に入り、素早く牛丼を食べる。朝の牛丼は上手いんだよなぁ。
    7:45発の高速バスに乗り込み、そのまま京都に運んでもらった。
    停留所への到着は朝の10:00前、そこからてくてく歩いて家まで帰った。
    台風の被害はどの程度かと、色んなものが吹き飛んでやしないかと心配したが、無傷。一つだけ窓が開けっ放しだったのにも関わらず、平気だった。

    こうして無事に帰宅でき、当日の大文字サイレント盆踊りは無事に開催できたし、送り火も木の間から見ることができた。これは別の記事で詳しく述べたい。

    郡上からの高速バスで帰れていたのなら3800円ほどで済んだのであるが、名古屋で足止めされたので、交通費、ネットカフェ代、カフェ代、食事代など、旅費を積み上げてしまった。
    都心部で楽しく過ごすには金が必要だと実感した。
    予定外の出費であり、後ろ向きな出費なので残念ではあるが、学費として捉えようと思う。貴重な実体験による学びである。

    これが2023年8月のお盆、14、15、16と3日に渡る、徹夜おどりと名古屋足止めの旅だった。
    お世話になった皆様には感謝。
    一緒に思い出を振り返れる人がいる今回の旅は、とても豊かだった。
    どうもありがとうございました。

    台風が接近しているのに旅行を決行するのは不正解である。どうかしている。
    だが、いくつかの困難を経て拙者は経験値を得たし、友情が育まれたし、盆踊りへの考え方が少し変わったし、印象的な風景が心に残ったし、ブログも書けた。
    予定通り進まない旅は、まさに人生そのものなので、今後も物語性を楽しむよ。

    以上。