人の行き来が激しくなるお盆に台風が来るなんてどうかしてるし、
台風が来ると分かっているのに郡上八幡の徹夜おどりに行くと決断するのもどうかしている。台風からは逃げられると信じていたのだが……。
8月14日、連日の盆踊りで眠たい体を無理やり起こし、朝の8:40に京都駅を出発する高速バスに乗り、だいたい予定通りの12時前に郡上八幡インターに到着した時、空は晴れわたり日差しが暑かった。長良川のダイナミックな流れや小高い山の緑を見ると旅情があふれ、徹夜踊りを味わえる高揚感に足取りが軽くなった。
しかし、すぐさま不安に苛まれることになる。
予約していた帰りのバスの運休が決定した。
こうして、3つほど予期せぬ出来事に出くわした旅が始まったのである。
日本3大盆踊りをご存知だろうか?
みなまでは言わないが、一つは岐阜県郡上八幡市の郡上おどりである。
水が豊かな城下町で、長い日数実施されるし、お盆の4日間は徹夜で踊り明かすことでも有名。音頭と下駄の音が朝まで鳴り響く。
拙者は郡上おどりin京都を4回ほど体験したし、現地の徹夜おどりも1度だけ体験済みである。
また行きたいなと思いつつ、コロナ禍に阻まれていた。
そして今年、ようやく完全復活を遂げる。行かねば、行かねば。
だが、どうやって行こうか?
バイクで走って、キャンプで1泊するのはどうか? という案も考えていた。これをすれば、白鳥おどりにも参加できる。
あるいは、前回同様の0泊の高速バス弾丸トラベルはどうか? 徹夜おどりなので、宿泊する必要はないのである。
考えているうちに、ヒヨコが孵化したり、でもいなくなったり、台風が来たりして、高速バス弾丸トラベルを選択する事になった。
結果論として選択は失敗であった。撃ち放った弾は途中で失速し、帰れなくなったのである。
バス会社は復路の対案も示さぬまま運休の連絡をよこした。
さて、どうやって帰ろうか?
と深くは考えないことにした。
まずは踊り用の下駄を買う。遅い時間になると混雑するので早めに買ったほうが良い。
次に、郡上八幡に来たらやりたいことがあった。
それは川遊びである。
町のすぐ近くを流れる川(吉田川)で遊ぶ人が多く、また橋の上から飛び込むのも有名である。
泳ぐのが苦手であったがこの5年間で拙者は変わった。泳げる場所では泳ぎたい。
家から水泳用のインナーを身につけてきたので、後は脱ぐだけ。
暑い日なので川遊びする若者は多かった。まずは恐る恐る川に浸かってみる。
冷たい。ひえひえだ。琵琶湖や温水プールに慣れた体には、想定外の冷たさだ。水は濁っていて清流とは言えない。どんな深さなのか全く分からない。
初体験の拙者を横に、勝手知ったる人たちは岩場や橋から飛び込んでいる。
自分もチャレンジしてみるべきだと思った。
拙者は度胸も無鉄砲さもあるので、落ちるのはできる。
しかしながら、飛んだ後は恐怖で身がすくむし、おっさんなのに「キャア」と声が出てしまう、入水時のフォームも悪くてめちゃめちゃ衝撃を受けてしまう。
そこそこ町中で育ったから苦手なのはしょうがないよな、と自分を慰めたけれど、田舎で育ったとしても苦手だっただろうな。
この川の冷たさに味をしめて、気温が暑くてもランニングができると確信した。
周囲をぐるりと走り、町を体感した。特徴的なのはやはり水の豊かさ。鮎釣りの人をよく見かけるし、水を引いた場所をそこかしこで見かける。
城山にもアタックし、満足感を得た。トータル7km。
そして、再び川岸に行き、汗びしょびしょのウェアを脱ぎ、岩場から川に飛び込む。
やはり怖くて「キャア」と声が出てしまうし、入水が下手でキンタマに衝撃を食らった。
町中育ちなのでしょうがない。
その後の時間は、旅先の暇時間になり、本来であれば夕食を食べて、夜8時の踊りスタートを待つだけだが、意外なエピソードを挟まねばならない。
7月の高島おどりにてご縁をいただいたのだが、郡上おどりを含む奥美濃の踊りに詳しい方と連絡をやり取りする関係になり、「白鳥の拝殿おどりの練習会に行ってみませんか?」とお誘いをいただいた。「足がないので今回は厳しい」とお答えしたところ、「送迎しますよ」とのこと。最近は他力本願を念頭においているので、こういうお誘いは極力受けることにしており、「折角なので行きます」とお答えした。
この答えにより、かなり旅の運命が変わる、一般的には悪い方に。
午後6時半、日が暮れかかり、観光客がわさわさと町に出てきて、ちょっと温泉街の趣を見せる郡上八幡の通りを、拙者は逆に去る。国道に出て車に乗せてもらうためである。
高速を飛ばしてやってきてくれたその人の名をここでは、すえすけさんとお呼びしよう。
お会いするのは2回目であるので、いささか正体不明である。
持っている情報としては、盆踊り好き、学生時代は京都にいた、2つくらい。
車内でお喋りした結果、お仕事のことや、踊りよりも音頭や民謡に興味・造詣が深いことが判明した。
山々に霞みがかった田舎道を軽自動車は走り抜け、白鳥の前谷白山神社に連れて行ってもらったのである。
拝殿おどりというものを拙者はよく知らない。
だが、Twitterに流れてきた動画を見た記憶がある。儀式感があって好きな感じだった。
現場に行くと、おっちゃん方が集まっていて6・7人。すでに拝殿おどりの練習その1が実施された後で、女性陣は別の盆踊り会に出掛けたらしい。郡上おどり、白鳥おどりをはじめ、色んな場所で盆踊り会があるとのこと。
少人数で踊られた拝殿おどりはどんな感じだったか?
一言でいうと、大人のかごめかごめ。
まず、拝殿というのはこんな感じ。
京都の神社にも拝殿はあるけれど、神輿が置かれたり、献酒が置かれたり、太鼓の演奏があるようなイメージ。一般人が上って踊るイメージは全くない。
拝殿おどりの本番は踊り子全員が拝殿に上って踊れる人数で行われるらしい。
拙者も体験したが、踊りよりも唄が重要らしく、リーダーが歌い、フォロワーが返すパターン。七五調で、都々逸というのが似たものとして挙げられるだろうか。歌い手は歌える人が順番に回すらしく、その歌詞を手持ちカードのように繰り出すようだ。踊りはさほど難しくはなかったはず。
下駄のリズムと生唄だけのかなり原始的な踊りだが、唄や踊りは流行に合わせて補充され、踊りの種類も歌詞も豊富らしい。
すえすけさんは良い声で歌っておられたし、拙者も合いの手を多少頑張った。
拙者はフレンチフォークダンス会にも参加するのだが、同じようにシンプルなステップと生唄だけの踊りがあり、原始的な踊りは世界共通だなと感心した。
派手な楽しさはないものの、盆踊りの歴史が感じられ、脈々と受け継がれている流れに身を委ねる安心感があった。盆踊りの奥深さを感じたところである。
とにかく、よそ者を受け入れてくださり、保存会の三島さまを筆頭に皆様に感謝を申し上げたい。
ありがとうございました。
拝殿踊りは夜の10時半頃に失礼し、白鳥おどりに向かった。
白鳥おどりは噂に聞いていた。郡上おどりよりも速くて激しいと。石黒さんならそっちの方が好きじゃないかと言われていた。若者は白鳥おどりを好むとも聞いていた。
ゆえに、いつか来ようと思っていた盆踊りであり、すえすけさんの計らいで体験できる事になった。感謝である。
会場に到着すると、噂に聞いていたとおり若者たちが多い。どっから出てきたん?と思うほどに多い。
さっそく踊りの輪の中に入ってみる。速い、ムズい。
それなのに、なんでみんな悠々と踊れているのか? 郡上おどりには踊り初心者みたいな人も多いのに、白鳥ではそういう人をあまり見かけない。
自分の踊れなさに唖然とする。
ちょっといけそうな時もあるのだが、集中力を切らすと急に踊れなくなる。盆力が足りない。
それでもなんとか輪の中には入っていたが、神代(じんだい)という曲はダメだった。輪から出ざる負えなかった。
若者たちは余裕で踊ったり、駆け回るように踊ったり、ただの行進やないか!と思うレベルで踊ったりしていて、衝撃的だった。
次回は、頭のフレッシュな序盤から参加して、踊りをマスターすべきだと思った。
この地ですえすけさんは色んな人に声をかけられ、親しくし、この界隈の売れっ子なんだな、と思い知る事になった。
ちなみに、なぜみんなあんなに踊れるのか? とすえすけさんに言ってみると、初心者は諦めて早々に輪から出るから、という答えだった。ガチ勢時間になっていたもんな。
日付が変わってしばらくした後、本命だった郡上八幡へ向かうのであるが、想定外の出来事に見舞われるのである……。
つづく
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