カテゴリー: 旅とアウトドア

  • 花背のことは話せばわかる(2)狩猟と養鶏

    花背のことは話せばわかる(2)狩猟と養鶏

    この記事は、花背のことは話せばわかる(1)林業女子と自然観察の続きである。
    知人に誘われて、京都市北部の山間部に行った拙者は、色んな人と出会い、新たな発見に心をときめかせた。

    罠の見学

    最初のやまとそらのおうちに戻り、スイカを頂いた後、狩猟の方から猟場を見学してみるか? とお誘い頂いた。
    これは拙者が先月狩猟免許の試験を受けたと言い、でも何も知らないとも言ったからである。
    しかし、この後雨が降り始め、めんどくさいことになるのである……。
    レインコートを持ってきたとはいえ、雨の山道をバイクで走るのはかなりめんどくさい。靴もランニングシューズで来てしまっていたから。

    シャアシャア降る雨に濡れ、なんとか知人と一緒に車を追い、狩猟の基地になる予定の場所を教えてもらった。
    ジビエとして販売ができるように、解体所を整備しているとのこと。またすぐ近くに販売できるお店も建てているところだった。
    山間部でもこういった新しい動きがあるのは良いことである。

    次に猟場を案内してもらった。
    雨の中、草ボーボーの獣道を分け入る。
    今は猟期じゃないので大型の箱罠とくくり罠を仕掛ける予定の場所を見るだけだったが、養蜂をされている様子や、熊よけに大声を出すべきだと教わった。
    拙者は「ほいほーい」と大声を出すと、狩猟の方は「その意気だ」と喜ばれていた。
    しかし、獣道は雨でぬかるんでいたし、草は背丈を超えて生い茂っているし、ルンルンとお散歩気分というわけにはいかない。
    そして、流血の原因もここにあるのだ。

    狩猟の方から猟期になったら連絡をいただける事になり、その場では別れた。
    狩猟試験を受けたすぐのタイミングで、こういう方に出会えたのは幸運だ。

    さて、靴がぐしょぐしょだし帰ろうかな、と思いきや、知人は他にも寄るべき場所があるよ、と言った。

    養鶏の候補地

    またバイクを走らせる。小雨になってきた。
    たどり着いた場所は、再生中の古民家。
    古い家ならではの暗がりを遠慮がちに覗いてみると、床板が取り除かれ、多くが土間になっている。周りはブルーシートで覆われている。おくどさんや囲炉裏だけが真ん中に陣取っている。なにやら面白いことをされているようだ。
    聞くところによると、知人の友人が古民家を再生し、宿泊施設かカフェにするとのこと。
    夢があって良いなぁと思った。

    そんなことを思いつつ、軒先に座らせてもらったところ……、問題が発覚。
    拙者の足から血が流れている。
    よく見てみると、ヒルだ。
    今まさに、腹をふくらませたヒルがスネについている。2匹も。
    ライターをかりて、火で炙って、地面に落として踏みつけた。
    ヒルにやられると血がダラダラ流れる。なかなか止血しない。
    さきほどの猟場でつかれたようだ。
    我が首にもうごめいていたし、実に気持ち悪い。
    潤いが豊富な山中であるが、その分厄介なやつも多い。
    自衛せねばな、と思った。
    ランニングシューズで山に入るのはちょっと山を舐めていた。

    さて、この古民家再生中の人だが、どうも資産家のようで、色々な高い車をコレクションし維持されているらしい。また古民家の近くに広い土地を買い、キャンプ場にしたり、ブドウ系の果実を栽培したりと動かれているとのことだった。
    拙者が養鶏をしたいことが知人の仲介で伝わると、その農園で果樹を栽培しながらニワトリも飼えば良いのではないか? と盛り上がった。
    そして、その土地を見に行くことになった。

    軽トラで行くのだが、乗車するのは3人なので、1人は荷台に乗らねばならぬ(私有地なので法律的にはたぶん大丈夫)。そして、荷台に乗るべきは拙者である。
    座って乗るより、ジェットスキーみたいに立って乗ったほうが良いとのアドバイスに従い、そうした。
    軽トラはガッタガタの道、もちろん舗装されてないジャリジャリの登り坂を上がるものだから、めちゃめちゃ揺れて、まるで遊園地のアトラクション。
    昔、ディズニーシーでインディ・ジョーンズのアトラクションに乗ったことがあるが、それを思い出した。リアルな木の枝が襲いかかってくるのでしゃがんでよけた。横転するのではないかと恐怖に震えた。

    たどり着いたのは、山肌をならした原野が動物よけの柵で囲われている、そんな場所。
    なかなかワイルドで開拓者精神が沸いてくる。
    養鶏もしたいし、キャンプ場整備もしたいと思うところ。
    花背への移住をリアルに考えるようになった。

    まとめ

    ちゃんと鞍馬経由で帰ったものの、やはり2時間くらいはかかるようで、改めて遠いな、と思った。
    シャワーを浴びようと服を脱ぐと、腹部にも流血の後があった。
    ヒルへの憎しみが増した。

    そんな風に良いことばかりではなかったが、知人に誘われ軽い動機で花背に行ってみたが、思いのほか良い出会いがあり、かなり濃厚な日を過ごすことができた。
    拙者のやりたいことを知って、色々と連れ回してくれた知人には大感謝である。

    こういう人間関係を大切にしたいよね。
    とりあえず、また火曜日、花背に遊びに行ってみるよ。

    以上。

  • 花背のことは話せばわかる(1)林業女子と自然観察

    花背のことは話せばわかる(1)林業女子と自然観察

    拙者がたしか中学生だった時に、学校のカリキュラムで花背 山の家という林間学校的な施設に一泊した。
    その合宿のことはほとんど記憶になく、どの女の子に想いを寄せていたとか、何を食べたとか、焼き板をしたか、キャンプファイヤーはあったかなど何も思い出せない。
    ただ、1つだけ憶えている。
    友達がクイズというか、なぞなぞを出してきた。

    友「山の家に捕まりました。何と言ったでしょう?」
    僕たち「???」
    友「正解は、放せー(花背)」

    たったこれだけで、花背は一生忘れない場所になった。
    そんな場所に中学生ぶりに行ってきたのだ。

    知人からお誘いいただいた、花背で行われる謎のイベントに。
    案内文をスクショしただけの画像で、雑な誘い方だった。
    何が行われるのか不明だったが、拙者は暇なので誘いを断らない。
    いざ行ってみると、恐怖もあったし、面白みもあったし、流血もあったが、色々とお世話になったので、拙者らしく記事にしておこうと思う。

    行き方

    花背は遠い。道が険しい。拙者が住んでいるのと同じ京都市なのに、滋賀県高島市に行くほうがスムーズなのではないかと思われるほどだ。
    地図はこんな感じだ。

    車で1時間半ほどと書いてあるがそんなので行けるのか? 距離はフルマラソンくらいだ。
    田舎というか、山間部であり。ヘアピンカーブをニョロニョロ越えて行かねばならぬ。
    ちなみにGoogleマップでは大原を経たルートを示してくるが、地元に人に聞くと、鞍馬からのルートのほうがスムーズだと聞いた。
    どおりで厳しかったわけだ。
    大原まではよく知っているが、そこからの道が険しくて、どんどん山道を上ったかと思うと霧が出てきて、もののけ姫のテーマソングが似合いすぎる景色の中をバイクで走って恐怖に震えた。戻ってこれない世界に行きそうになった。

    お弁当

    10時頃に家を出て、恐る恐るバイクを走らせたので2時間ほどかかり、12時前に目的地に到着。
    イベントの開始は午後1時。昼食は現地で適当に済まそうと思って出かけたが、花背は流石の山間部でコンビニとか皆無。
    昼食くらい抜いてもいいよ、と思っていたが、目的地のやまとそらのおうち(旧JA花背)に着いてみると、火曜日だけお弁当の販売があるとのことだ。ラッキー!

    美味かった。
    次の火曜日もぜひ行きたいと思った。
    ライダーやサイクリストは火曜日を狙って行ってはどうか?

    林業女子会の女性

    お弁当を食べている間、企画の主催者である林業女子会の女性とお喋りして、色々と花背エリアの情報を知れた。
    今回の企画は花背の写真展がメインで、サブイベントとしてトークイベントや自然観察会が実施されているようだ。その自然観察会に拙者たちは来たのだ。
    拙者は広河原の松上げや盆踊りに興味があると伝えると、花背の松上げがあったことや、今週末に広河原で行われると教えてもらった。
    この女性は、花背エリアの生活を紹介する小冊子を発行されており、それを頂いた。
    山間部のまちづくり活動・地域おこし活動をされている方、というのが分かりやすい表現だろうか。
    オオハンゴンソウという特定外来種の駆除の話や、狩猟の話なども聞かせてもらい、充実のランチタイムになった。

    30分ほど時間が空いたので、周辺をジョギングし、桂川の上流である上桂川(もしくは大堰川)に足を浸してみた。暑いながらも良い空気を吸えた。

    自然観察会

    定時になり知人とも合流できた。
    ここから目当てのイベントである自然観察会がスタートする。
    右も左も分からぬままリーダーさんの言いなりになり、バイクで少し場所を移動し、旧道沿いに停める。
    集まったのはたしか13人で、ほとんどがじいちゃんばあちゃんと呼ぶべき年齢で、数人だけ若い世代が混ざっている感じ。
    自己紹介が始まったが、12人もの名前を覚えられるはずもなく、拙者には紹介すべき自己もない。なんだか分からないまま来てしまった、ただの男である。
    自然観察会という名の通り、周辺の植物に目をやっては、これは〇〇だ、これは△△だ、毒がある、食べれる、などと教えてもらえる。名前の由来や特徴などよく知っておられる。メモを取りながら聞いたなら、とても勉強になったに違いない。

    後々理解したところでは、こちらの会は、NPO 自然観察指導員京都連絡会の方々であるそうで、定期的に山野に出かけてはハイキングがてら自然を観察したり、子どもたちに教えたりしているそうだ。
    また、林業女子会の女性の呼びかけで、花背でも植生調査をしているそうである。

    皆様、ご高齢になっても向学心が高く、また運動にもなっているので、良い会だなぁと思った。

    この会の参加者の中に、花背で狩猟をしている方がおられ、次の章につながるのである。

    罠の見学

    最初のやまとそらのおうちに戻り、スイカを頂いた後、狩猟の方から猟場を見学してみるか? とお誘い頂いた。
    これは拙者が先月狩猟免許を受けたと言い、でも何も知らないとも言ったからである。
    しかし、この後雨が降り始め、めんどくさいことになるのである……


    ちょっと長くなってきたので、続きものにするよ。
    また次回。

    To be continued…

  • [募]トラベルはトラブルがつきもの!旅トーク会Ⅲ(2024.6.16)

    [募]トラベルはトラブルがつきもの!旅トーク会Ⅲ(2024.6.16)

    旅をしてるかな?
    旅の思い出なんてものは胸に秘めておいて、ときおり写真を見返したりして、ニマニマと愉しんでおれば良いのだけど、それだけではもったいないような語りたい旅があったりするものだ。
    ならば、語ろう!

    更に言うと、貴殿の旅トークを聞くことはやぶさかでないのだよ。
    人生観が出るからなぁ。旅の目的は生きる目的に似ているし、旅のスタイルは生き方にも似ている。
    拙者は貴殿の人生に興味がある。

    旅にも人生にも興味がある人を集めて語らうと、とても豊かな時間が流れる。
    できるだけ古き良きお茶会のような雰囲気にしたい。
    不思議の国のアリスとか、赤毛のアンとかに出てくるようなお茶会。
    お茶を飲んでスイーツを食べよう。お茶もスイーツもこういう時間のためにある。
    ぜひぜひ楽しみにしてほしい。

    概要

    [日時]2024.6.16(日)、14:00~16:30
    [会場]JR藤森駅近くの屋敷(参加者にのみ詳細を伝えます)
    [会費]1000円(おやつとお茶つき)
    [内容]最近行った旅についてお互いに発表する会。傍聴のみも可能。
    発表時間は20分、質疑応答含む。
    写真を用意すると発表しやすい。スライドを作って発表するのも可。
    TVモニターが使えます。
    WindowsPCを経由させる方法、スマホをミラーリングする方法、直接HDMIケーブルでつなぐ方法などがあります。
    発表に必要なケーブルやデバイスなどはご持参下さい。
    [定員]発表者は6名程度。傍聴者は4人程度

    ご予約はメールなどで受け付けます。
    >>お問い合せ

    過去の様子

    前回は庭で実施した

    過去記事→壊れやすい世界と旅トーク会Ⅱ

    前々回は和室で実施した

    過去記事→旅トーク会のススメ!現代に必要な愉しさについて

  • 地下足袋で比良山に登るとどうなってしまうのか?

    地下足袋で比良山に登るとどうなってしまうのか?

    登山靴は高い。しかも使用頻度が少ない。
    安いものもあるかもしれないが、安物買いの銭失いという言葉もある通り、山中で足が痛くなったら最悪だ。
    だから拙者は登山靴を買えない。

    とはいえ、これまで比良山にはよく登っていた。
    滋賀県西部にある比良山系は駅から気軽にアクセスできる上に、琵琶湖が見下ろせて最高なのである。
    そんな1000m級の山にどんなシューズで登っていたかというと、トレランシューズ。
    登山靴に比べてトレランシューズは安いし、身軽さを求める拙者にはちょうど良い。
    水に浸かったり(渡渉)できないのが難点ではあるが、そんな道を選ばなければ良いのである。
    ただし、買い替えの時期にきていた。

    最近、トレランはかなり流行っている。ランニングサークルで話を聞くと、みんなトレランも好んでいる。ゆえにシューズのラインナップも豊富になっている。
    新しいものを買おうか、以前のものがmontrail、次はasicsで良いかな、と思っていた。
    しかし、気が進まない。
    地下足袋で良いのではないか?

    拙者は去年から地下足袋型のランニングシューズを履いており、最初は足にダメージを受けて、「不良品や、もうやめや」と思っていたが、それは走り方やフォームに問題があると知って、徐々に修正した結果、ダメージが軽減されてきた。
    前よりも強くなったのだ。
    それゆえ、登山においても同様の思考が働く。
    ただし足袋型のランニングシューズでは底が薄すぎるし、シューズ自体にダメージを受けると思い、なにかトレランに向く地下足袋はないのかと調べた。
    すると、ほどほどに底の厚い地下足袋が存在している。

    地下足袋にも色々あって、底の厚さが違う。
    コスチューム用のペラペラのやつから、エアーが入っているものまである。
    素足感もありつつ、そこそこクッション性もある地下足袋。トレランに向くのはまさにそういうもの。

    地下足袋は登山靴より、トレランシューズよりさらに安い。

    こうして拙者にとって地下足袋はトレイルの定番になり、比叡山まで行ったり、将軍塚までみんなで走ったりしたのである。
    ちなみにではあるが、路面によっては足がめちゃめちゃ痛い。石がゴロゴロしている山道はそこら中にある。足つぼマッサージだと思って耐えるしかない。外傷にまでは至らないし、途中で穴が開くとか底が剥がれるとかはないので信頼できる。
    そしてついに、比良山に挑む日がきた。

    これは2023年11月11日の話で、山の師匠の登山会が招集され、ハーフマラソンも控えているのでトレーニングにちょうど良いなと参加した。
    女性も含む10人くらいのチームで登るのでペースは普通くらい。
    なので、地下足袋登山には最適だ。
    とはいえ、山の師匠に「山を舐めるな」と怒られやしないかと心配しつつ家を出た。

    朝が早すぎたので、バイクで登山口まで向かう作戦。別件があってお酒が飲めないのでちょうど良い。
    登山口でメンバーに会うと、やはり「なんで地下足袋なん?」と言われたが、拙者は「山を傷つけないため」とやや上級者ぶった回答をすると、「カッコいい」と好評であった。
    山の師匠も「マタギは地下足袋や」と、驚きの高評価で、拙者も『ありなんやぁ』と安心したところである。
    確かに地下足袋だと、鹿にめちゃめちゃ近づけたりするんだよな、奈良でもないのに。

    さて、地下足袋で登山してみた使用感だが、上りはめちゃめちゃ具合が良い。軽快であるし地面と足が密着して安心感を感じるほどである。イン谷口から金糞峠のルートであったが、すごく足袋に向いていた。
    一方の下りの方はというと、雑な足取りになれないでやや苦戦。接地を気をつけないといけない。尖った石などの上に着地すると痛いのである。ゆえにスピードは出せないし地面を見るので姿勢も悪くなる。でも下山の際はそのくらいの慎重さが必要かもしれん。

    結論としては、拙者の登山スタイルでは登山靴が必要なく、地下足袋で丁度よいと判明した。
    マタギが地下足袋なのは認識してなかったが、山伏は地下足袋なので登山には向いているのである。
    なので、みなさまも地下足袋登山にチャレンジしてみてはいかが?
    ちなみに普段からの修練が必要なので、いきなりはやめておこう。

    お金が無いから登山靴を買わないのではないのだよ、山を傷つけないためさ。

    以上。

  • 郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【3.名古屋駅足止め編】

    郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【3.名古屋駅足止め編】

    情報が出揃った後ならば最適な決断ができるが、情報は生ものであり刻々と変わるし、伏せられている情報も多い中で、決断せねばならない。
    台風による名古屋駅での足止めは、そういう修行のようだった。

    これは、郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【1.拝殿おどり・白鳥おどり編】【2.郡上おどり編】の続きである。

    台風が接近する中で名古屋駅には滑り込めたが、そこから京都に帰るあらゆる公共交通機関が運休していた。また、周辺の大型商業施設も臨時休業だった。

    すべての情報を知っていたならば、まずはネットカフェに直行し、24時間滞在コースを申し込み、休める場所とコンセントといつでも使えるシャワーを確保し、それから町をぶらついたであろう。
    だが、あらゆる情報をこの時の拙者は知らない。
    また、問題も抱えていた。
    ・徹夜おどりの後で汗をかいたままだ
    ・スマホの充電がどんどん消費され、充電器も持ってきていない
    ・夜を明かすことになるなら、どこを寝床にするか?
    ・夜を明かして何で帰るのか?
    ・旅費が潤沢というわけでもない
    ・大文字サイレント盆踊りには間に合うのか?
    さてどうするか?

    名鉄の名古屋駅を降り立ったのは7:30頃だったが、拙者は名古屋駅の構造についてまったく知らないし、とりあえず周辺を歩いて情報を得てみた。街は緊急事態の様相で、高速バスも各鉄道も運休しているのが分かった。
    駅のキヨスクは開いていた、ありがたい。とりあえずおにぎりを買った。飢えることはないと知って安心した。

    拙者はとにかく歩いた。ちょっと座っておにぎりを食べ、思考できる場所を探した。
    地べたに座っている人をちらほら見かけたが、拙者はすぐに座り込みたいほど疲れてはいないし、好奇心は存分にあった。
    JPタワーの周囲は何かとキレイで、ゆったり座れるシートを見つけた。この後この場所には何度かお世話になる。

    おにぎりを食べた。
    こうすることで気持ちが場に馴染む。
    近くにいたオジサンに声をかけた。
    「足止めされてますか?」
    「はい、大阪に帰りたかったけど、とまってるね」
    「動きますかねぇ」
    「今日は泊まりかな」
    などという会話で現実感が湧いて、問題に対処する気持ちになった。

    雨脚は強まっている。
    スマホで周辺のネットカフェを検索した。
    なにぶん土地勘がないので、現在地・方角の感覚が分からない。
    最も駅から近いネットカフェは駅の反対側のようだった。
    名古屋駅はおおむね南北に線路が走っており、街は西側と東側に分かれている。
    東側から西側へと歩いた。
    東側も閑散としていたが、西側のエスカ地下街もシャッターばかり。唯一ドラックストアだけは開いており、歯ブラシと歯磨き粉を買った。地下街共通クジの補助券を渡されたが、店員さんも「意味ないかもしれませんが……」と恐縮そうだった。

    ネットカフェにたどり着くと、すでに多くの待ち人がいた。
    店員の女の子が言う。
    「現在、満室でお待ちいただいております。どのくらいお待ちいただくかは分かりません」
    拙者はこういう時に待てないタイプである。こうして不正解を選ぶのである。
    シャワーを浴びたいんやけどな、と呟くと、
    「シャワーはすぐにご案内できます」
    とのこと。
    30分300円で貸してもらった。
    こういうサービスがあるなら、都心部でランニングしてもさっぱりできるなー、と新たな知見を得た。

    シャワーから出て、店員さんに
    「たとえば、今日の夜8時からって予約できますか?」
    と聞いたら、なんだか手書きの表を見て、ムムムと表情を変えて、アカンのかな? と思ったが、控室に入って、戻ってくると、
    「受付できます」
    できんのかい。
    これで、寝床の心配はなくなったし、キャンセルも簡単そうだし、シャワーでさっぱりしたし、元気になった。そんな気がした。

    そのテンションで、また名古屋駅を徘徊する。
    駅は閑散としてるから鬼ごっことかしたらオモロイかなー、足止めされてる人を集めて人狼ゲームとかやってもいいなー、などと考えたが、そこまでの体力はなかった。
    本当に欲していたのは居眠りできる場所だった。

    足止めされても楽しみたいと思って、喫茶店に入ったり、持ってきた文庫本を読んだり、雨脚が弱まったタイミングで外に出てみてサイゼリヤに入ってみたり、食事をした後ウトウトしたり。
    そんなことをしているうちに時間は午後になり、スマホの充電が僅かになってしまって、危機感が募った。
    右も左の分からぬ場所でスマホが使えなくなるのはキツイ。情報戦の最中なのに。

    再び歩き、ドラックストアでケーブルを買って、レンタル型のバッテリーを借りてみたりもした。
    あまり急速充電はできないようで、10%だったのが30分で22%くらいになった感じだったかな。

    勢いよく流れる雲を見ながら閑散とした街を歩いてみると、足止めされているのは日本人より外国人が多かった印象。これは日本人は移動を取りやめたけど、旅行中の外国人は移動を取りやめたからといって帰る場所がないからだと思う。
    周辺は海外のターミナル駅みたいだった。

    すえすけさんから電話をいただいた。
    車で無事に帰宅したことや、その後にあったことなどを聞き、良ければ迎えに行くので我が家でシャワーやスマホの充電をしては? とご提案いただいた。親切な人である。
    しかし、だいたいは解決済みであったし、もしかしたら交通が復活するかもしれんと一縷の望みを抱いていたし、それは辞退した。

    夕方が近づいてくる。台風は遠いようで風雨の心配は無くなり、拙者は範囲を広げてぶらついてみる。もともと街への好奇心が強く、体力もあるので、こういう行動をよくとる。
    かなり名古屋駅への理解が深まってきて、東側は高層ビルが多く整ったイメージだが、西側はやや雑多なイメージ。
    雑多な方をぶらぶらすると、立ち飲み屋が開いていて、入りそうになったが、今はダメだと自分を律した。座るべきだと思った。
    小さなホテルのロビーにあるカフェスペースはコンセント使用可なのが外からでも分かったので、そこに入って値段のはる缶ビールを飲んだ。充電は進んだ。

    こういう時でも仕事のメールが入ってきて、面倒くさいと思いつつ、暇だから良いかと対応したりする。
    充電も満ちてきたので交通の情報を得てみる。
    近鉄の一部路線が動き出したようであった。
    高速バスの情報も見てみると、翌日の便は予約可能になっていた。しかし、席数は僅か。近鉄で帰れる可能性もあったが、高速バスは争奪戦だろうと思ったので、予約を入れた。

    動いているかもしれない近鉄の改札に行ってみる。
    たしかに途中までは復活していた。しかし京都まではまだだった。
    早めの夕食を食べ終わった後に、再び近鉄の改札に行ってみると、どうやら京都まで帰れそうなルートがあった。
    ここで、エイ! と決断すればこの日に帰れた訳だが、初めての路線で、居眠りして乗り換えをミスる可能性もあるし、高速バスもネットカフェも予約済みだし、この線はやめておいた。
    とにかく、高速バスの予約再開も近鉄電車の路線復活も何の通知もしてくれないし、情報戦を実感した。緊急時は色んなものが野性味を増す。

    夜の8時、ネットカフェに行きようやく小さな安住の地を得た。
    リュックの中に入れていた浴衣や手ぬぐいや靴下が、汗臭いまま湿っていて、旅先の不自由さを実感した。帰れていたらこんなことにはならないのにな。
    漫画もネットも見ず、緑茶だけをいただいて、リラックスして、横になった。
    ちゃんと眠る場所でもないし眠りは浅いが、くつろげてはいた。
    途中でめちゃめちゃ寒くなって、空調のコントロールを覚えたり、ブランケットを追加で借りて、また眠ったりした。

    しかし深夜、めちゃめちゃうるさくするヤツがどこかに来た。電話で喋ってやがって、こっちの部屋にまでかなり響く。
    男の声、おそらく20代。
    どこから聞こえてくるのか特定できなくて、横か、ドアを挟んだ前か、それとも上の階か?
    でも、いい機会だと思って、とりあえずはシャワーを浴びに行った。
    その段階で、隣の部屋から聞こえてくることがわかった。

    シャワーから戻っても、まだ喋っていて、拙者はやや不機嫌になって、どうしよかなと、ロビーに通話して隣の人がうるさいので注意してくれと言うのが正攻法だろうな、しかし店員さんも仕事が増えて面倒くさいだろうな、不愉快なのは拙者だけかもしれんし、正攻法だけど最短ではないよな、と思っていたが、急な足止めで疲れてもいたし、体調が万全でもなくて、急にブチギレスイッチが入ってしまった。
    まずは自室の壁をドンドンドンと勢いよく叩く。
    それでも怒りは収まらないどころか、怒りのダムは堰を切った。
    ドアを出て、隣の部屋をノックする。
    コンコンコン。コンコンコン。
    「はい」などと、部屋から声がする。
    それでもしつこくノックする。
    コンコンコン。
    そして、鍵を開けさせ、扉も開けさせた。
    拙者は怒鳴らない。周りに迷惑になるからだ。あくまでも静かに低い声で言う。空調のせいで喉はガレガレになっている。
    「分かるか、うるさよ」
    相手は、すいません、と言う。
    小太りの売れない若手芸人みたいな見目だった。
    「電話したいんやったら、階段の方に行ったらいいんちゃうか」
    拙者はすごく紳士的である。代替案まで提示する大人の対応である。
    相手は、すいません、すいません、と言う。
    相手の目には恐怖の色が宿っていたので、それ以上は必要なかった。拙者はそのまま部屋に引き換えした。
    当然のごとく、すぐに静かになった。
    部屋の鍵を開ける時点で恐怖だっただろうな。ネットカフェの逃げ場のない小さな部屋に押し入られたら、どうしょうもないもんな。
    こうして、コミュニケーションによって問題は解決されたし、不躾な若者は周りに配慮する心が宿ったことを期待する。

    ちなみに拙者はカラオケ屋でバイトしたことがあって、ノックは3回と教えられた。こういう時においてもその教えを守ってしまうのが、けなげで、少し悲しくなった。

    朝の7時、アラームがなる前に起き、チェックアウトして、牛丼屋に入り、素早く牛丼を食べる。朝の牛丼は上手いんだよなぁ。
    7:45発の高速バスに乗り込み、そのまま京都に運んでもらった。
    停留所への到着は朝の10:00前、そこからてくてく歩いて家まで帰った。
    台風の被害はどの程度かと、色んなものが吹き飛んでやしないかと心配したが、無傷。一つだけ窓が開けっ放しだったのにも関わらず、平気だった。

    こうして無事に帰宅でき、当日の大文字サイレント盆踊りは無事に開催できたし、送り火も木の間から見ることができた。これは別の記事で詳しく述べたい。

    郡上からの高速バスで帰れていたのなら3800円ほどで済んだのであるが、名古屋で足止めされたので、交通費、ネットカフェ代、カフェ代、食事代など、旅費を積み上げてしまった。
    都心部で楽しく過ごすには金が必要だと実感した。
    予定外の出費であり、後ろ向きな出費なので残念ではあるが、学費として捉えようと思う。貴重な実体験による学びである。

    これが2023年8月のお盆、14、15、16と3日に渡る、徹夜おどりと名古屋足止めの旅だった。
    お世話になった皆様には感謝。
    一緒に思い出を振り返れる人がいる今回の旅は、とても豊かだった。
    どうもありがとうございました。

    台風が接近しているのに旅行を決行するのは不正解である。どうかしている。
    だが、いくつかの困難を経て拙者は経験値を得たし、友情が育まれたし、盆踊りへの考え方が少し変わったし、印象的な風景が心に残ったし、ブログも書けた。
    予定通り進まない旅は、まさに人生そのものなので、今後も物語性を楽しむよ。

    以上。

  • 郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【2.郡上おどり編】

    郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【2.郡上おどり編】

    人は色んな理由で足止めされるわけだが、多くの旅を経験している人には普通のことだろう。

    台風接近のため、京都へ帰る高速バスが運休になった時点で、拙者には16日の夕方までには京都に帰らねばならぬ使命がのしかかってきた。なぜなら大文字サイレント盆踊りという企画を抱えていたからである。
    帰りの心配を抱えたままの旅であった。

    さてこの記事は、郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【1.拝殿おどり・白鳥おどり編】の続きである。
    すえすけさんの車に乗せてもらい、拝殿おどり、白鳥おどりとハシゴした後の話。いよいよ郡上八幡の徹夜おどりへ繰り出そうとしていた。
    夜は更け、日付は15日に変わったばかり。
    暗がりの中の駐車場を軽自動車に乗って出発した後……。

    ここからは他者の失態を書かねばならぬので筆が重い。
    だが、旅日記としては最高の山場であるし、避けては通れない。
    誰にでも起こり得ることなので、他山の石としてほしい。

    深夜の国道にてすえすけさんは空腹を感じ、それを満たすためにコンビニに入ろうとした。右折入場である。
    あっという間の出来事であった。
    車は赤いポールめがけて真っ直ぐに進み、そのまま縁石に乗り上げ、飛び越え、自由を奪われた。
    拙者はビックリしたが、シートベルトを抜かりなくしていたので衝撃は受けていない。車から降りてみると、右前輪のタイヤがみるみるうちにぺちゃんこになっていくところであった。
    タイヤは空回りするばかりで、身動きとれないことはすぐに分かった。

    すえすけさんはパニックになられていたことだろう。拙者も車での事故経験はなく、あまり頼りにならないが、
    「警察に電話しましょう、保険屋さんに電話しましょう」
    などとアドバイスはした。
    JAFにはすぐに繋がって、警察官もまもなく来たが、加入している任意保険の連絡先が不明で、この点で不安を抱える。だ…‥大丈夫か? と思った。
    すえすけさんは事故に対処せねばならぬ上に、拙者に対しても気を使われて、
    「ここはほっといて、郡上八幡に向かって下さい」
    などと言われたが、なんらか解決の見通しが立たないと不安だし、
    「僕のことは全然気にしないで、問題解決しましょう」
    と、返した。
    すえすけさんにとっては、わざわざ京都から踊りに来た人を自分の失態で足止めさせて申し訳ない、という気持ちだっただろうな。事故の重みがましたことだろう。
    拙者の方はというと、予定通りに事が運ぶより、物語性がある方が好きなので、ぜんぜん平気。

    深夜の国道を走る車は少なかったけれど、興味深そうに事故現場を目視し、通り過ぎていった。
    さっきまでそっちの世界にいたんだけどな。
    まもなく任意保険の電話番号が分かり、そして参照もでき、ホッとして。さらにはJAFの方が来て、縁石からの脱出を処置された。
    これが職人芸で、感心した。
    枕木を積み上げて坂にして、縁石の上を一本橋のように通り抜ける。
    色々と難しい点があったようだが、最後には見事に脱出し、ぺしゃんこのタイヤにもかかわらず上手く動かし、コンビニの駐車場に移動された。

    この間、すえすけさんは拙者のために盆踊り界隈における人脈を発揮し、ほうぼうに連絡をとり、白鳥から郡上八幡に向かう人がいないかと探してくれ、何度か落胆した様子だったが、最後にはちょうど向かう人を探し当てたのである。
    めちゃめちゃすごいな、と思った。
    そして、その方も間もなく来てくれたのである。

    車はバンパーが割れていたのとタイヤがパンクした以外は無事。この時、スペアタイヤがあれば交換して走れる状況であったが、それはなく、パンク修理キットレベルではダメだった。
    どこかにレッカー移動だな、いつもの車屋さんはお盆休みだな、じゃあどこに移動してもらえば良いのか? などと混乱したが、JAFの方が親切で、近くのガソリンスタンド、あるいはタイヤ屋さんで交換してもらえるんじゃないかと結論が出た。
    この時、深夜3時前後なので、とにかく朝まで待って、電話で付け替えられるタイヤの在庫を確認して、その後にレッカー移動してもらう、という結論になった。
    これで解決の見通しが立ったわけである。

    後に聞いた話によると、朝の8時頃にはタイヤ交換してもらえて、すえすけさんは車を走らせて無事に帰られたそうである。
    結果からいうと、この程度で済んで良かったな、ということだろう。
    人をはねたり、車同士でぶつかっていたなら、もっと大変な事になっていた。
    拙者にとっては旅先で3時間ほど足止めを食らい、踊り時間が減ったわけだが、思い出深いエピソードになった。
    というわけで皆様、車の運転には充分に気をつけて下さい。

    さて、拙者の旅はまだ続く。念願の郡上八幡、徹夜おどりに行けたのだ。
    すえすけさんが呼び出してくれた方をここではさんと呼ぶことにする。解決の見通しが立った後はその場にいても役に立たないので、さんの車に乗せてもらい、郡上八幡に向かった。深夜の長良川沿いは湿度が高いようで、フロントガラスが曇った。
    車中でお話を伺っていると、このさんもすごい方で、郡上おどりや白鳥おどりの音頭を人前で唄えるレベルの人だと知った。

    買ったばかりの下駄をカラカラとさせ踊りの会場に到着する。踊り子が輪になり踊っている。中央にやかたが見える。
    拙者にとっては5年ぶりの郡上おどりで、ものすごく懐かしさを感じた。別に故郷でもないのに郷愁があった。踊り子たちが十字にぐるぐる回るあの世界は、拙者の記憶に深い印象を刻んでいたようだ。
    かといって、踊りは体に馴染んではいない。さっそく踊りの輪の中に入ったが、手慣れた踊り子たちの中でまだまだ新参者である。
    よそ者でもあるので知り合いはいないはずだったが、高島おどりで顔を合わせ、お喋りした方がいた。高島在住の方である。ここでは諏訪さんとお呼びしよう。
    声をかけたところ、ちょっとだけ勘違いされ、まあ良いかと思っていると、京都の人ってところで思い出してもらえたようである。
    その方は、積極的に唄っておられた。CDをめちゃめちゃ聞いて、習ってもいたそうだ。陽気で、楽しそうでいいなぁと思った。私も負けじと知ってる合いの手を発声し、ちょっとは慣れた奴ぶれただろうか。諏訪さんも今後はこの界隈で名を上げていくんだろうな。
    拙者が郡上おどりに参加できたのは、深夜3時半頃で、朝5時終了だとすると残り時間1時間半。大半の踊り子たちはすでに体力を使い果たした後のようで、しかし拙者は体力を余し気味。パーティーに遅れて行ったのは確かだったようだ。やたらにこやかに踊ってしまい、なに余裕ぶってんだ! と思われたかもしれない。

    踊り続けていると、真っ黒だった空は、徐々に、徐々に、白さが増していき、少しづつ魔法がとけていく。ああ、終わっちゃうんだな、と思った。さっきまで幻想の中にいたのに、リアルさに侵食される。艶やかな浴衣の美女たちはどこかに消えていく。
    春駒のどんちゃん騒ぎの後、まつさかで終わりを迎えた。
    踊り子たちは写真撮影タイムを迎え、そして散っていくのである。

    郡上の徹夜おどりを終えたが台風は接近している。拙者はなんとかして京都に帰らねばならない。
    さんの計らいで、美濃加茂方面まで乗せて行ってもらうことになったが、JRの運休の報が入っており、朝は動いている名鉄の駅まで送っていただいた。
    車中では盆踊りの楽しい話を聞かせてもらい、事故というトラブルはあったけれど新たなご縁ができて、面白いものだなと思った。
    さんは郡上おどりに初参加した当初から踊りよりも音頭の方に関心が高く、自身でバンドを結成され、今ではメンバーも増え、出演機会も豊富らしい。何事も続けるのが大事だなと感じた。
    今度はさん出演の盆踊り会に足を運ぼうと決意している。

    いいご縁があってありがたいなぁと、居眠りしながら名古屋駅に着いたのは7時半ごろ。街に出てほっと一息つけるはずが、安心できるものではなかった。
    新幹線も、JR各線も、近鉄も、高速バスも、京都へ向かうあらゆる交通機関は運休が決定していた。さらには、周辺のデパート等の大型商業施設は臨時休業だったのである。
    都心部らしからぬ姿を見せる名古屋駅で、どう動こうかと頭を悩ました。
    いくつか問題がある。
    ・徹夜おどりの後で汗をかいたままだ
    ・スマホの充電がどんどん消費され、充電器も持ってきていない
    ・夜を明かすことになるなら、どこを寝床にするか?
    ・夜を明かして何で帰るのか?
    ・旅費が潤沢というわけでもない
    ・大文字サイレント盆踊りには間に合うのか?

    これらの問題を抱え、閑散とする名古屋駅を徘徊するのである。

    つづく

  • 郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【1.拝殿おどり・白鳥おどり編】

    郡上の徹夜おどりに行ったけど、台風のせいで…【1.拝殿おどり・白鳥おどり編】

    人の行き来が激しくなるお盆に台風が来るなんてどうかしてるし、
    台風が来ると分かっているのに郡上八幡の徹夜おどりに行くと決断するのもどうかしている。台風からは逃げられると信じていたのだが……。

    8月14日、連日の盆踊りで眠たい体を無理やり起こし、朝の8:40に京都駅を出発する高速バスに乗り、だいたい予定通りの12時前に郡上八幡インターに到着した時、空は晴れわたり日差しが暑かった。長良川のダイナミックな流れや小高い山の緑を見ると旅情があふれ、徹夜踊りを味わえる高揚感に足取りが軽くなった。
    しかし、すぐさま不安に苛まれることになる。
    予約していた帰りのバスの運休が決定した。
    こうして、3つほど予期せぬ出来事に出くわした旅が始まったのである。

    日本3大盆踊りをご存知だろうか?
    みなまでは言わないが、一つは岐阜県郡上八幡市の郡上おどりである。
    水が豊かな城下町で、長い日数実施されるし、お盆の4日間は徹夜で踊り明かすことでも有名。音頭と下駄の音が朝まで鳴り響く。

    拙者は郡上おどりin京都を4回ほど体験したし、現地の徹夜おどりも1度だけ体験済みである。
    また行きたいなと思いつつ、コロナ禍に阻まれていた。
    そして今年、ようやく完全復活を遂げる。行かねば、行かねば。

    だが、どうやって行こうか?
    バイクで走って、キャンプで1泊するのはどうか? という案も考えていた。これをすれば、白鳥おどりにも参加できる。
    あるいは、前回同様の0泊の高速バス弾丸トラベルはどうか? 徹夜おどりなので、宿泊する必要はないのである。
    考えているうちに、ヒヨコが孵化したり、でもいなくなったり、台風が来たりして、高速バス弾丸トラベルを選択する事になった。
    結果論として選択は失敗であった。撃ち放った弾は途中で失速し、帰れなくなったのである。
    バス会社は復路の対案も示さぬまま運休の連絡をよこした。

    さて、どうやって帰ろうか?
    と深くは考えないことにした。
    まずは踊り用の下駄を買う。遅い時間になると混雑するので早めに買ったほうが良い。

    次に、郡上八幡に来たらやりたいことがあった。
    それは川遊びである。
    町のすぐ近くを流れる川(吉田川)で遊ぶ人が多く、また橋の上から飛び込むのも有名である。
    泳ぐのが苦手であったがこの5年間で拙者は変わった。泳げる場所では泳ぎたい。
    家から水泳用のインナーを身につけてきたので、後は脱ぐだけ。
    暑い日なので川遊びする若者は多かった。まずは恐る恐る川に浸かってみる。
    冷たい。ひえひえだ。琵琶湖や温水プールに慣れた体には、想定外の冷たさだ。水は濁っていて清流とは言えない。どんな深さなのか全く分からない。
    初体験の拙者を横に、勝手知ったる人たちは岩場や橋から飛び込んでいる。
    自分もチャレンジしてみるべきだと思った。

    拙者は度胸も無鉄砲さもあるので、落ちるのはできる。
    しかしながら、飛んだ後は恐怖で身がすくむし、おっさんなのに「キャア」と声が出てしまう、入水時のフォームも悪くてめちゃめちゃ衝撃を受けてしまう。
    そこそこ町中で育ったから苦手なのはしょうがないよな、と自分を慰めたけれど、田舎で育ったとしても苦手だっただろうな。

    この川の冷たさに味をしめて、気温が暑くてもランニングができると確信した。
    周囲をぐるりと走り、町を体感した。特徴的なのはやはり水の豊かさ。鮎釣りの人をよく見かけるし、水を引いた場所をそこかしこで見かける。
    城山にもアタックし、満足感を得た。トータル7km。
    そして、再び川岸に行き、汗びしょびしょのウェアを脱ぎ、岩場から川に飛び込む。
    やはり怖くて「キャア」と声が出てしまうし、入水が下手でキンタマに衝撃を食らった。
    町中育ちなのでしょうがない。

    その後の時間は、旅先の暇時間になり、本来であれば夕食を食べて、夜8時の踊りスタートを待つだけだが、意外なエピソードを挟まねばならない。
    7月の高島おどりにてご縁をいただいたのだが、郡上おどりを含む奥美濃の踊りに詳しい方と連絡をやり取りする関係になり、「白鳥の拝殿おどりの練習会に行ってみませんか?」とお誘いをいただいた。「足がないので今回は厳しい」とお答えしたところ、「送迎しますよ」とのこと。最近は他力本願を念頭においているので、こういうお誘いは極力受けることにしており、「折角なので行きます」とお答えした。
    この答えにより、かなり旅の運命が変わる、一般的には悪い方に。

    午後6時半、日が暮れかかり、観光客がわさわさと町に出てきて、ちょっと温泉街の趣を見せる郡上八幡の通りを、拙者は逆に去る。国道に出て車に乗せてもらうためである。
    高速を飛ばしてやってきてくれたその人の名をここでは、すえすけさんとお呼びしよう。
    お会いするのは2回目であるので、いささか正体不明である。
    持っている情報としては、盆踊り好き、学生時代は京都にいた、2つくらい。
    車内でお喋りした結果、お仕事のことや、踊りよりも音頭や民謡に興味・造詣が深いことが判明した。
    山々に霞みがかった田舎道を軽自動車は走り抜け、白鳥の前谷白山神社に連れて行ってもらったのである。

    拝殿おどりというものを拙者はよく知らない。
    だが、Twitterに流れてきた動画を見た記憶がある。儀式感があって好きな感じだった。
    現場に行くと、おっちゃん方が集まっていて6・7人。すでに拝殿おどりの練習その1が実施された後で、女性陣は別の盆踊り会に出掛けたらしい。郡上おどり、白鳥おどりをはじめ、色んな場所で盆踊り会があるとのこと。

    少人数で踊られた拝殿おどりはどんな感じだったか?
    一言でいうと、大人のかごめかごめ。
    まず、拝殿というのはこんな感じ。

    京都の神社にも拝殿はあるけれど、神輿が置かれたり、献酒が置かれたり、太鼓の演奏があるようなイメージ。一般人が上って踊るイメージは全くない。
    拝殿おどりの本番は踊り子全員が拝殿に上って踊れる人数で行われるらしい。
    拙者も体験したが、踊りよりも唄が重要らしく、リーダーが歌い、フォロワーが返すパターン。七五調で、都々逸というのが似たものとして挙げられるだろうか。歌い手は歌える人が順番に回すらしく、その歌詞を手持ちカードのように繰り出すようだ。踊りはさほど難しくはなかったはず。
    下駄のリズムと生唄だけのかなり原始的な踊りだが、唄や踊りは流行に合わせて補充され、踊りの種類も歌詞も豊富らしい。
    すえすけさんは良い声で歌っておられたし、拙者も合いの手を多少頑張った。
    拙者はフレンチフォークダンス会にも参加するのだが、同じようにシンプルなステップと生唄だけの踊りがあり、原始的な踊りは世界共通だなと感心した。
    派手な楽しさはないものの、盆踊りの歴史が感じられ、脈々と受け継がれている流れに身を委ねる安心感があった。盆踊りの奥深さを感じたところである。

    とにかく、よそ者を受け入れてくださり、保存会の三島さまを筆頭に皆様に感謝を申し上げたい。
    ありがとうございました。

    拝殿踊りは夜の10時半頃に失礼し、白鳥おどりに向かった。
    白鳥おどりは噂に聞いていた。郡上おどりよりも速くて激しいと。石黒さんならそっちの方が好きじゃないかと言われていた。若者は白鳥おどりを好むとも聞いていた。
    ゆえに、いつか来ようと思っていた盆踊りであり、すえすけさんの計らいで体験できる事になった。感謝である。

    会場に到着すると、噂に聞いていたとおり若者たちが多い。どっから出てきたん?と思うほどに多い。
    さっそく踊りの輪の中に入ってみる。速い、ムズい。
    それなのに、なんでみんな悠々と踊れているのか? 郡上おどりには踊り初心者みたいな人も多いのに、白鳥ではそういう人をあまり見かけない。
    自分の踊れなさに唖然とする。
    ちょっといけそうな時もあるのだが、集中力を切らすと急に踊れなくなる。盆力が足りない。
    それでもなんとか輪の中には入っていたが、神代(じんだい)という曲はダメだった。輪から出ざる負えなかった。
    若者たちは余裕で踊ったり、駆け回るように踊ったり、ただの行進やないか!と思うレベルで踊ったりしていて、衝撃的だった。


    次回は、頭のフレッシュな序盤から参加して、踊りをマスターすべきだと思った。
    この地ですえすけさんは色んな人に声をかけられ、親しくし、この界隈の売れっ子なんだな、と思い知る事になった。

    ちなみに、なぜみんなあんなに踊れるのか? とすえすけさんに言ってみると、初心者は諦めて早々に輪から出るから、という答えだった。ガチ勢時間になっていたもんな。

    日付が変わってしばらくした後、本命だった郡上八幡へ向かうのであるが、想定外の出来事に見舞われるのである……。

    つづく