京都の鴨川沿いを北上し、高野川を遡ると比叡山が接近してくる。その西側を進むと山の気配が漂い、ヒヤッと涼しくなる。そのまま山の中に入っていくかと思いきや、ちょっと開けて田舎っぽい風景が広がる。そこが大原である。
三千院が有名なあの大原。

大原に行こうと思ったのは、有精卵が売っているという情報があったからである。
昨今の玉子不足で売ってないかもしれんけど、その際はランニングでもして、無音の滝なるものを見てみようか、とバイクを走らせた。

2023年6月21日(水)、平日で夏至だ。
平日の昼間からぶらぶらと出かけられるのは、現在休職中だから。1年ほど調理の仕事に勤しんでいたが、モチベーションが下がったので辞めた。美味しいものを求めなくなって、料理への探究心がなくなったのが大きいと思う。
収入については不安を持ちつつ、その不安のせいで変な選択をしないようにと自分を戒める。

有精卵が売っているというのは、大原里の駅。田舎に行くとよくありそうな直売所。
平日の正午前だったが、7割くらい駐車場は埋まっていたし、併設のカフェは満席だったようだ。賑わっている。
直売所の棚を見ると、かなり商品が減っていて一抹の不安を感じた。
玉子は売り切れているかもしれない……。
野菜、米、よもぎ餅、パンなどが売っている。それらをスルーし、玉子、玉子と店内を見回すと、見つけた!
10個入りのプラパック、ちゃんと有精卵と書いてある。お値段は?
700円!
まだまだ玉子不足で高騰している。昨年秋の時点では500円ほどで買えたはずなんだよな。でも、あるだけ良かった。
玉子の他、1000円の味噌、キュウリ、ビーツ、よもぎ餅を購入。
最近は脱プラごみを意識しているのだが、全部プラやポリ袋に入っているので少しだけ嘆息。

有精卵を手に入れたので、次は無音の滝を目指す。
バイクをちょっとした公園に停め、ウェアに着替えてラン開始。
地下足袋と腹掛けスタイルなので、田舎道によく似合う。大原には庄屋さんの家みたいな屋根が多く残っており荘厳だ。田舎と表現しているが、京都にはかなり近いし、裕福な家が多いと思われる。地名のブランドもあるしね。
広大な農地はなく、すぐ山に行き当たり、上り坂になり、観光地によくある駐車場や喫茶店が増えると三千院に行き着く。
三千院には入らずに、沢がある坂道を駆け上っていく。寺院が並んでいるので舗装されている。

大原には来迎院と勝林院というお寺がある。この2つは声明道場として有名だと京都検定に出てきた。
声明というのは、節を付けてお経を読むことであり、それって今では念仏として普通のことだが、その源流の道場がここにある、という認識。
てことは、江州音頭とか〇〇節の源流なのであり、盆踊り愛好家としては感慨深い。
無音の滝というのも、この声明の修行が行われた滝であることからその名前がついたそうだ。
白い水流がせらせらと散って、なかなか風情のある滝だと感じた。

その後は、赤しそ畑を通り抜け、寂光院にも足を伸ばし、ランニングを楽しんだ。
周辺を一周りすると10kmほどになるので、走って回るには充実した場所だった。田舎道、山道、観光地のバランスが良い。次は山の中にもアタックしてみたい。

ぶらぶらとランニングをして、平日の昼間に誰の役にも立たぬことをしており、大人としては恥ずかしい限りであるが、今回得た情報が誰かの役に立つ可能性もあるし、恋に疲れた女に大原の地をオススメできるかもしれんし、考えすぎないでおこう。

仕事に疲れた男がひとり、涼やかな大原を後にして、住宅の建ち並ぶ伏見に帰り、有精卵を温め始めるのである。

以上。

ちなみに、山田農園さんでも別の有精卵が買えます。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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