出町柳に向かう電車の中で、私は少し怖気づいていた。
人生初の一歩を踏み出すときの、あの不安と期待が入り交じるドキドキとワクワクです。
サイレント盆踊りという未体験なものを自分が主催しちゃうプレッシャーにひくひくと震えがくる。
しかし私は気付きました。
「クレイジーにチューニングすればええんや」
一般人のままでは、サイレント盆踊りなんてできねぇ。自分の周波数を狂ったところに合わせたら、訳わからぬことをしても平気だ。
電車に揺られながら、私の心は変化していったのです。

コロナのせいで、やりたいことができない。
それが1年半以上も続いている。
去年も盆踊りが壊滅して、今年も同じく壊滅した。
しかしこの現状を受け入れるか、抗うかの自由を私は持っていて、
「自分にできることをしよう」
と、堅く決意する、、、訳でもなくて、1歩づつ踏み出していく感じ。

とある盆踊り会が直前で中止になって、モヤモヤしました。
だから室内で1人で踊ってみた。これが意外にスッキリした。
翌々日、散歩のついでに、屋外の公園で踊ってみた。室内で踊るより爽やかで楽しかった。「サイレント盆踊りできそう」って実感しました。
1歩づつの経験で、この企画は立ち上がりました。

こうして私は呼びかけ人になり、様々と準備やテストを重ねて、開始2時間前に出町デルタにたどり着いた。
お盆であるし、ちょうど送り火の日です。

どこなら踊れるか?
と思案し、歩いた。
河川敷にはスペースがある、だが送り火なので往来の邪魔になるのは良くない。踊って迷惑にならない場所はどこだろう? 少し上流の方に行くべきだろうか?
いちゃつくカップルや、1人でビールを味わう男性、場所取りしている外人さんを横目に見ながら視察。

この時もやはり、クレイジー、がキーワードになりました。
折角なので一番クレイジーな場所が相応しい。

こうして、彼の地に定めました。

私はビールを買ってきて、河川敷に佇み、約束の時間を待ちます。
空を見上げると、文字通り暗雲が漂うのです。雲行きが怪しい。
一昨日降りしきった豪雨によりワイルドさ増した鴨川。
空気は湿り気を帯びている。
送り火を待つ人達が、河川敷に腰掛けている。
そんな中、私は音響のテストとして、1人で踊ってみる。
「狂人、現る!」
と、思われたことでしょう。

辺りは暗くなり、サイレント盆踊りの開始時間が近づく。
ここで、仲間がやってきてくれるのです。
私はとても安心しました。
「踊れるぞ」
と確信しました。

19:00、音頭の開始とともに、ちょうど雨が降ってくる。まるで狙ったように。
1時間しかないので、中断する選択肢はありません。
雨の中を踊る。狂気さが増して、丁度いい。

炭坑節、河内音頭、郡上おどりのかわさきを順に踊りました。
ロケーションがめちゃめちゃ素晴らしくて、踊りのスイッチが入ります。
暗くなったので、周りの人の視線は気にならなくなりますし、むしろ「もっと見ろ」という気持ちが湧いてくるほどでした。

程なくして、もう1人が仲間に加わり、盆踊りの輪が成立すると、さらにムードは増した。
江州音頭、郡上おどりの春駒を踊った。
周囲を気にしながら踊りましたが、特に迷惑がっている人はなく、ソーシャルディスタンスは確保され、完璧なサイレント盆踊りになった。

提灯に覆われたまさに夏祭りといった盆踊り会も良いけれど、ただそこにある風景、要は借景に頼ったサイレント盆踊りもかなりメリットがあると実感した。
楽しく、心地よく、踊った。

20:00、ほどほどに汗をかき、盆踊りを終える。
少し移動すると、大文字の送り火が見える。
控えめな送り火だが、ラストに夏の風物詩を楽しめるのもパーフェクトだった。

そして、サイレント盆踊りの成功を祝して缶ビールで乾杯。
祝杯を上げた。
気持ち良くなった勢いで盆踊りトークを繰り広げてしまった。
好きなことを語れるのは嬉しい。

こうして、我々は京都盆踊り界に新たな歴史を刻みました。
いや、盆踊りのような民藝は歴史なんて残らないだろう。
ただ文化が残れば良いのだ。
恒例行事になるべく力を尽くしたい。

今回の4人が英雄視される未来がくるといいなぁ。
せきはん
マーシー
ひろむ
石黒わらじろう

各地の盆踊りが中止になる中、率先してお精霊さんの魂を慰めた我々に栄光あれ!

私はこんな風にサイレント盆踊りを実施し、家に帰った。
なんだか夢心地です。
実際の出来事なのか分からなくなるくらいに、非日常で、ファンタジックだった。
なんだか本当に踊ったのか確証が持てないし、踊ったのが自分だったのか疑わしい。

8月22日にもサイレント盆踊りを実施予定で、この時にはもっと実感が湧くかなぁ。
かなり楽しいことが分かったので、人を積極的に誘えます。
興味のある方はこちらをご参照ください。
>>【boncer募集】サイレント盆踊り発祥祭THE伏見(8.22)

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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