こんにちは、今日は読んだ本の話。
伊吹有喜さんの「ミッドナイト・バス」を読了しました。

夜行バスに乗る機会はありますか?

私は昔、東京ディズニーシーのキャストでしたので、実家の京都と往復する時、乗りました。
2席が連なってる安いやつ。
便利なことに東京ディズニーランドの入り口まで連れてってもらえたから、バスを降りた後は徒歩でアパートまで帰れた。

当時付き合ってた彼女が見送りに来てくれたことを思い出す。
しかし最終的にはヒドいことしたなぁ……。

この、ミッドナイト・バスという小説は大型バスの運転手である利一というオッサンがメインの主人公です。たまに東京↔新潟間の夜行バスを運転する。
昔、妻に逃げられたという傷を負っています。
このあたり、とても伊吹作品らしい。

また、脇を固める、利一の息子・娘なんかもやはり傷を負っていて、逃げた妻も登場するのですが、やはり問題を抱えている。
こうしてヒューマンドラマが展開されていくのです。

私は伊吹作品がとても好きです。誰かが死んだり、めっちゃ悪いやつが出てこないのに、それでもお話が進んでいく点が。

本作は珍しい構成で、連作短編みたいでもある。
利一の視点で物語が進むだけではなく、他の登場人物の視点で話が進む。8人くらいかな?
それぞれの理由で夜行バスに乗る人々です。
別の人の視点で、別の登場人物が語られて、絡み合って面白い。
利一の娘が作った商品を、別の登場人物が持ってたりする。交錯している。

で、この構成を可能にするのが、伊吹さんの文体です。
比喩表現とかレトリックの類がほとんどなくて、ストーリー展開が早い。
テレビの副音声で、目の不自由な人向けの音声がありますよね。
ナレーターが「聡は大通りを歩いてゆく」みたいに語るやつ。
あれを文字で読んでいるような気になる文体です。
文学的ではないのですが、逆にそれが個性的。

また、会話などではコミカルな雰囲気もあり、シリアス過ぎないのも良いです。
利一の娘はアイドル活動的なことをしているのです。パフォーマーが出てくる点も伊吹作品っぽいところ。

とにかく上記の点が、私は好きなのです。
「いつもの伊吹さんだ」
と、嬉しくなります。

今、調べたところ、この作品は直木賞にノミネートされているし、映画化もされています。
注目に値する作品ということですね。

主人公の利一は40代後半ですが、私は40代前半。
小さい頃から抱いていたコンプレックスを克服したかと思ったら、大人になってから受けた傷をまだ克服できてなかったりする。
さらには老いもやってくる。
そんな年齢ですね。

まぁ、悩みは尽きないし、その分だけドラマがあるってことですな。

夜行バスに乗ることはなくなりましたけど、この作品で思い出した。
夜に浮かぶオレンジ色の光、
サービスエリアで降りるとひんやりした空気がながれてくること、
隣のオッサンのいびきがうるさかったこと、
首に引っ掛けるタイプの枕が便利なこと、
ずっと続く振動、乾燥した空気、コソコソと喋る人たち。

圧迫された空間で、嫌いだったなー。

オススメできる小説です。
普通の人の普通の悩ましい小説。
読みやすく展開も早いのでノーストレスですよ。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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