記憶をたどれば「自分の船を持ちたい」と夢見てた頃があって、その船で世界一周を目論んでいた。その前の段階には金持ちになる必要があることも分かっていたし、何らかの自営業を営んで成功させねばならぬと思っていた。そう願っていれば叶うと信じていられるほど若かった。

今の拙者がその若者にアドバイスするならば「その道はあるよ」って言いたい。そして「ちゃんとした成功者を見つけて、弟子になりなさい」と言いたい。

「その道」が拙者には見つけられず、挫折と挫折を繰り返し、悲しき過去を積み上げて、今に至る。

だけれど若者よ、幻滅してくれるな。君が夢見ていた「初対面の人にでも明るく振る舞える人」にはなっているよ。

2023年4月9日(日)~10日(月)にかけて、琵琶湖ヨットクルージング旅にお誘いいただき、そのツアーメンバーとして参加してきた。
ヨットオーナーの陽さん(仮)と仲間たち11人による1泊2日の船旅で、コンセプトは海津大崎の桜を船上から観ること。
雄琴にあるマリーナから琵琶湖を北上し長浜の北にある港まで行くのが1日目。海津大崎まで行き、沖島に寄って、雄琴に帰るのが2日目。

まずはお誘いいただいた陽さんと、一緒に過ごしていただいた皆様に感謝を申し上げたい。
様々にご用意していただき、ありがとうございます。

しかし、拙者はヨットクルージングの経験が無く、油断もあったし、体質的にも課題があって、ちょっとしんどかった。

まず、拙者はそこそこ船酔い体質だと知った。船が揺れると視界がグラリと揺れて、オエッと気持ち悪くなる。船上にいて遠くを見ていると酔わないそうだが、春の湖上の寒さを甘く見て防寒装備が弱すぎた。だから船室で座禅しているような格好でひたすら3時間ほど耐えた。

また、拙者の好みとしては、自力で目的地にたどり着くのが好きで、ヨットに乗っているだけというのは、ちょっと物足りない。
帆を張り帆走させるなら、アクションもあるそうだが、今回は風向きや時間が足りずその機会はなかった。
まだまだ体を動かしたいお年頃であり、ヨットは時期尚早かもしれない。

この旅から2日経ったのだが、いまだ平衡感覚が異常で、これは陸酔いではなくて、頸椎にダメージを食らったっぽい。慣れない揺れと慣れないライフジャケットに拙者の不器用な体も三半規管も網膜も対応しきれてなかったようだ。
無念である。

上記の通り、楽しいことばかりではなかったけれど、拙者は満たされた。とても満たされた。

最も満たされた点は、今回のメンバーに選んでもらったこと。
ツアーメンバーは一癖も二癖もある大人で、みんな良い人で、でもこれまでに何らかの不幸は乗り越えてきたような年齢で、それぞれマイペース。
拙者より10歳ほど上の人が多く、先輩方と言うか、お兄さんお姉さんと言いたい感じ。
拙者にとっては近い未来像なわけで、大きな学びがある。
だいたい皆様、1つか2つは大好きなものを見つけられていて、人生を楽しんでおられるように見えた。

すでに桜の散った海津大崎の景色を船上から見つつ、お姉さんと喋っていると、
「歳を取ると、思ってるよりできないことが増えるけど、その分気づけるようになることもある。速く走れなくなる分、周りの景色に気づけるみたいに」
というようなことを仰っしゃり、とても説得力があった。
湖面から切り立つ山の景色とこの言葉を思い出せるだけで、旅の価値はあるよな。

キャプテンの陽さんはほとんど仕切らなくて、どこかのタイミングで自己紹介タイムがあるかと思ったけれど、夕食の時になっても以前から知っていた4人以外(要するに6人)は正体不明のままで宴会を共にした。陽さんはびっくりするぐらい早くに寝に行ってしまうし、どういう空気になるんだい? と思っていたけれど、近江牛のしゃぶしゃぶはいくらでも食べられる上質な脂だったし、最年長の方の持ってきてくれた日本酒は美味かったし、日本酒の話は得意とするところだったし、ヨットのマニアックな話はレアだったし、眠たくなったら寝たし、楽しい空気だった。
ちなみにメンバーの4人は途中で寝て起きて、朝の4時まで飲んでいたそうだ。強すぎるぞ。

このメンバーと過ごしているうちに、拙者が誘われた理由が分かってきて、みんなマイペースで、かといって和を乱さなくて、一人旅を辞さなくて、とにかく飲めて、勝手に楽しむ人達で、そんな同質性を理解した。このメンバーなら仕切り不要なんだな、きっと。

とにかく、飲み食いしてる以外は寝ている、というべき船旅で、前述の近江牛しゃぶしゃぶも湖魚づくしのランチもラム肉ベーコンも行者にんにくを豚肉で巻いたやつも釜茹でひじきの炊いたのも全部美味しくて、「美味しい、美味しい」と拙者は何度も呟いた。
取り合って食べるくらいが美味しいんだよな。
1人でも美味しいものは食べれるけれど、それとは全然違う。

あるいは、旅から帰った翌日、1人で住む家では「おはようございます」って言う相手がいなくて、それをSNSで代替したりしていて、ショボい生活だなって思った。
旅館の布団で起きて、座敷に誰かがいる空間は、心地よいものだったよな。
そういうことをちゃんと憶えておこう。

とまぁ、旅日記としては失格だけれど、自分へのインパクトを残した点については書けたと思う。

旅日記としては、渋滞も周りに遮るものもない湖上の自由さや、波を切る音や、琵琶湖大橋をくぐる喜びや、浮御堂や比良山や竹生島を湖上から観ること、油断すると船から落ちる恐怖、船の二階建て構造などを述べたいところだけど、それらは機会があれば。
旅で心に残るのはいつも人だからなぁ。

若者よ、恐れるなかれ、楽しもうと思う気持ちがあれば、どんな人生でも楽しめるよ。

以上。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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