消えてしまったヒヨコたちとの思い出を書き残しておこう。

一緒に過ごした時間は48時間に満たないほど短かったけれど、卵を温めて孵化させたのは初めての体験で、だからこそ濃密な時間だった。

拙者は過去に3度も孵卵に失敗しているが、今回は手応えがあった。温めてから18日目に検卵(暗い場所でライトを当てる)をした際、卵の大部分が黒い影だったからだ。
そして21日目、卵の中からヒヨヒヨと鳴き声がして、卵がふるふると動くのを確認した。
翌朝になって卵を確認すると、ヒヨコは出ていない。しかし、殻のかけらが落ちていて、これは出てくるのかもしれないと期待した。
「おいでー、おいでー」と声をかけた。
しかし、出てこなかった。
後に調べたことだが、ヒヨコは卵の殻に穴を開けて、肺呼吸の準備をするらしい。だから12時間くらいは出てこない。孵化するシーンを見たいのであれば12時間後からが要注意。

日中ずっと出てこないので、拙者は夕方に西本願寺の盆踊りに出掛けて、訳も分からず踊って盛り上がり、疲れて帰宅すると、殻が割れて生まれたてのヒヨコが横たわっていた。
その時の湿度は50%くらいで、これは乾燥気味。すぐに加湿した。
この時に、サポートが必要なのかどうかが分からず、待っていれば立ち上がって歩いてくれるかと思っていたが、ヒヨコは横たわったままもがいている。動いてはいるが、足をばたつかせるだけだった。
そのまま2時間も観察して、これはおかしいんじゃないかと思ってようやく殻に手を伸ばすと、敷いていたキッチンペーパーと接着しており、ヒヨコの力では到底剥がせぬレベルだった。恐る恐る殻を割りながら剥がしてみたが、卵の薄皮(卵殻膜)がヒヨコに貼り付いていた。背中から頭に至るまで貼り付いてカチカチになっており、無理に剥がすとヒヨコを傷めるのではないかと思い、手を出せなかった。
このヒヨコの名は後にツイとつけた。
貼り付いた卵殻膜のせいで目を開けられず、歩行が困難な様子でツイ自身もパニックになっていたようである。

この異変によって拙者は学んだのだが、孵化直前の卵はキッチンペーパーの上に置くのではなく、籾殻のようなものの上に置くべきだと知った。
この時にはもう一つの卵も殻に穴を開けており、急いでキッチンペパーを細かく刻んで、卵の下に敷いた。
そして翌朝を迎える。
弱々しいツイを気にしてどうすべきかと苦慮していると、朝の7時頃にもう1羽のヒヨコが孵った。ターである。
ツイの時の失敗を活かし、頭の殻を外すのをサポートした。
ちなみに、殻とへその緒が繋がっているケースがあるので、サポートは慎重に。
ターはすぐに元気に歩き回って、これが成功パターンだと分かった。同時にツイは失敗だったと理解した。
これにより、貼り付いた卵殻膜を取り除くために何をしようかと考えた。

どうにかして卵殻膜だけを湿らせて、柔らかくしたら取れるんじゃないかと仮定して、霧吹きでシュシュっとしながら取ったらどうか?
これより良い方法が思い浮かばず決行する。
霧吹きの水は37度くらいを目指して加温した。

小さくて弱々しいツイを手のひらに載せる。
拙者の手元で死なないでくれーっと必死。
仮定の通り水を吹きかけたら卵殻膜は柔らかくなり、背中から徐々に剥がした。小さな頭や目元に余計なことをしたくなかったけれど、水をかけ膜を剥がした。
上手くは剥がれたのだが、残念だったこともある。
力を入れすぎないで剥がそうとした結果、ツイがバタついたので1m以上の高さから床に落とした。
絶望を味わった。
水気を拭き取ろうとしてる最中にまた落とした、30cmくらいの高さ。
こうしてツイは再び生まれ立てみたいなビショビショさになって、クタッとうつ伏せになったままになった。
拙者は死なないでくれ~、と必死だった。

この間、ターの方はどんどん元気になっていった。
生まれ立ての時はドラゴンの子どもみたいというか、目は鋭いし、毛はピンピンしているのが、毛づくろいもやりはじめ、どんどんふっくらしてきて、先に孵化したツイよりも大きくなった。

弱々しいツイは、ようやく立ち上がったと思ったが、目が開かないようだった。片目では上手く平行がとれないようで歩きにくそうだった。まだ目に何かがこびりついているのなら、処置しないといけないと思ったくらい。

一方のターはどんどん元気になって、別々の小箱に入れていたのにそれを乗り越えられるくらいになった。2羽を一緒にすると、ターツイをつついたりイタズラをするので、チラシで壁をつくり別々にしておいた。

しばらくするとツイはよく立ち上がるくらい元気になったと思ったが、やたらと鳴くようになった。ずっとずっとピヨピヨピヨピヨ言っている。
何か対処すべきなのか? 温度が悪いのか? 寂しいから鳴いているのか? と考えた。
一度手のひらにのせてみると、少し鳴くのをやめて、ウトウトと眠そうにした。このままのせてやっててもいいけどな、って思いつつ。手のひらの温度じゃ冷たいかと考えて、また孵卵器に戻す。

夜になり、0時に近くなってもピヨピヨとずっと鳴いている。
このままだとターにもストレスになるかと考えて、別のダンボールに移した。この時は電気アンカで保温。
歩かずに鳴いてるばかりだったので、死ぬ前の叫びだったらどうしようって不安になりながら拙者は浅い眠りについた。

翌朝になると、鳴き声は止まっていた。死んでいたらどうしようと思って箱を開けてみると、ツイはどうやら眠っていたようで、箱を開けた振動でまたピヨピヨとうるさいくらいに鳴き出した。
相変わらずちゃんと歩かずに弱々しい。水を飲まなかったら死ぬだろうなと思って、注射器を使ってくちばしに水をたらしたりした。
介助したら生き延びてくれそうだとは思った。

一方のターはのんびりとしていた。
拙者は「おはよう」などと声をかけた。
元気なターに孵卵器は狭すぎると思って、外に出すことにした。買い物かごを2つ重ねただけの育雛箱に入れて様子を見ると、敷いていた枯れ草をついばんだりして、好奇心旺盛だった。

ツイを再び孵卵器に入れたが、やはりピヨピヨと鳴くばかりであまり歩かない。
しばらくはそのままにしておいたけど、もしかした外の空気が必要かもしれないと、ターがいる外の育雛箱に入れてみた。
すると、ずっと鳴いていたのが、あまり鳴かなくなった。外の環境にビックリしているのかなと考えた。
ターツイにイタズラをするかを見ていたら、やっぱりイタズラをして、色々とつつくし、たまに目を狙ってつつくのでヤバい。しかし、育雛箱はそこそこ広くて逃げ場も多く、また全然歩かなかったツイは不器用なりに歩くようになり、外の方が良いと判断した。
そして時間の経過とともに羽毛もふっくらしてきて、どんどん元気になり始めていた。

気づいたことがあって、拙者が野菜の水やりとか洗濯とかでヒヨコたちの周りをウロウロすると、ターの方は後追いをする。これはもしかすると、刷り込みによって拙者のことを親だと思っている可能性が高い。
一方のツイはそういう気配がなく、どうもターのことを親だと思っているのかもしれない。だからターと一緒にしてやると鳴き声がとまったのかもしれない。
先に孵化したのはツイの方だが、ちゃんと目が開かなかったせいで、逆の現象が起こってしまったようだ。

夜になったら家の中に戻そうと思って準備していた矢先に、ヒヨコたちは消えてしまった。
さっきまでピヨピヨと鳴いていたのに、忽然と消えた。カゴだけが残されていた。
ショックは大きく、自己嫌悪も大きい。

でも、くよくよしないことにする。
上記の通り、大きな思い出になってる。
またチャレンジして、孵化が上手くなって、多くのニワトリを育てるようになって、慣れてくるかもしれないが、2羽のことは忘れないでいよう。
これはそのための記事。

以上。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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