正気の沙汰ではないのに、参加する人々が沢山いた。
嵐山耐熱マラソンという大会があって、8月の暑い最中に42.195kmをリレー方式で走る。
クレイジーだけれど、どのチームも楽しそうだった。
みんな、頭のネジが溶けてるのかもしれん。
拙者は女性と同じチームになって、タスキを渡したり受け取ったりしたかった。それなのに……。

今年に入ってからゆるくランニングクラブに参加している。
会費は特にないし、入会届も出していない、行っても行かなくてもいい。その名も京都ビアラボ ランニングクラブで、クラフトビールのお店のサークルである。
拙者は2月から毎月参加していて、第三土曜日16時にお店に行って、1時間で8kmくらい走って、銭湯に浸かって、ビールを飲みながらのお喋りを繰り広げていた。すると、嵐山耐熱マラソンの話題が出てきて、周りのみなさんが、出るよ出るよ、と言っているので、拙者もそのノリで申し込んだ。さほど興味はなかったけど。

リレーマラソンにはあまり興味がない。
マラソンは個人戦だからなぁ。自分との戦いだからなぁ。
1度グルメリレーマラソンに呼んでもらったことがあったけど、ご家族チームの助っ人みたいな感じで、数人しか知り合いがおらず楽しさは味わえなかった印象。
また、ハーフマラソン(21km)は6000円くらいで、リレーマラソンは1人4000円くらいで、5km程度しか走らないのに値段が高い、という勘定もしていた。

そんな気持ちで参加申込すると、京都ビアラボは3チーム作るぐらいの勢力になっており、拙者は真ん中のゆるふわチームに配属されていた。女性も含むチームだったので、変なコスプレとか着てワッキャしながら走ろうと思っていた。
だが日が経つと、参加人数がさらに増え、なぜだか拙者はエリートチームに繰り上がり、全然ゆるふわじゃなくなった。
1kmあたり5分とか4分とか平然と走る奴らの中に入れられて、プレッシャーを背負うことになる。

1周1kmなので短距離用のトレーニングを積もうと思ったが、この夏の暑さにやられ、むしろ走力は落ちてくる。
不安は募るばかり。
なおかつ本番前日は瀧尾神社の盆踊りがあり、調子にノリすぎ、場を荒らしすぎ、体力も使いすぎた。行くべきじゃなかった。
本番当日は足の張りをかかえて、嵯峨嵐山駅に向かった。

会場の公園に着くと、すでにアップしているランナーがいる。こんな暑いのによく走るなぁ、ガチな人怖い、と思った。
ほどなく京都ビアラボチームの待機場所を見つけた。ビアラボ関係者は40人くらいになっており、おそらく参加チームの中では最大勢力だったのではなかろうか。同時に知らない人が多いということでもある。同じチームのメンバーにゼッケンを配ろうと思ったが8人中4人は知らないし、1人は集合時間に来てないし連絡先も知らないし、かなり困惑。
最初は9人と聞いていたが前々日に1名欠席になり、当日は1人来なくて、7人でのスタートになった。42÷7なので1人6周ということになる。まぁこれはこれで平等。

謎の開会式を経て、スタートの号砲が鳴ると、全チームめちゃめちゃ飛ばす。
我がチームのメンバーも普段よりハイペース。
そして、普段は絶対に見せないであろう満身創痍の顔で帰ってくる。
拙者も1週目を走ったが、めちゃめちゃしんどい。まず路面がジャリジャリで走りにくい。声援がいつまでも聞こえて気を抜けない。タスキを回さないといけないのでマイペースでは走れない。
また、7人で回すと、休憩時間が24分ほどあるが、これによりどの程度回復が見込めるかが分からない。
ヤバい戦いに足を突っ込んだと思いつつ、周りの盛り上がりに当てられてなんだか楽しい。周りのみんなもしんどがりつつ楽しそうなのである。本当に正気の沙汰ではない大会だ。

競技会場は河川敷の運動公園をイメージしてもらえば、だいたい合ってる。
運動場エリアや林エリアがあって、中途半端な生け垣エリアもある。
暑さの方は風があったり曇る時もありつつピーカンの時もあって、まだマシな方だった。
それより自分が思い描くイメージよりも全然速くは走れなくて、なんつう鈍い足なんだと苦々しい。
魔神のように走りたいのだけどな。特に声援を受けるエリアでは。

レースが中盤に差し掛かったあたりで、我がチームの来なかったメンバーが急に来た。彼によると色々と連絡の不具合があり寝耳に水だったそうだが、仕事中にも関わらず駆けつけてくれたらしい。ゼッケンを渡し、参戦してもらった。
これにより、あと何周すれば良いのかという計算に戸惑ったが、何度か計算ミスして正しい答えが導き出された。3人だけあと2周で、4人はあと3周という計算。
ちなみに拙者はあと2周組で、めちゃめちゃ気持ちが軽くなった。3周と2周の差はでかい。

死ぬ気で走ろうと思ったが、流石に死ねなかった。

自分の出番が終わった後は、ゴール後の手配に勤しんで、みんなでゴールする手はずを整えたり、写真撮影を頼んだりしてクライマックスを待つ。我らのアンカーが最終コーナーを回って、広々とした中央のコースに進み出ると、チームのみんなで並んで、ゲートをめがけて走って、ゴールテープを切って、ワッと盛り上がって、
「チームで走るのって、めちゃめちゃ楽しいやん」
と、思った。

2:42:20というタイムは、総合21位で、132チームあった中で、そこそこ上位で誇らしかった。
他の人達が走っている最中にビールで乾杯して飲んで、とても美味しく、気持ちよかった。優越感。

その後、銭湯で汗を流し、祇園の酒場(山根子)を貸し切りにした完走パーティーが行われた。
同じ経験を分かち合った仲間との飲み会は心地よくて盛り上がった。
あんまり気心は知れてないのだが、2月から計6回参加しているのでそこそこ顔は売れてるし、走るのが好きでビールも好きという同じ嗜好を持っている安心感がある。変な奴は紛れ込まないというか、暑い最中に参加費を払ってまで走るクレイジーな奴らしかいない。これは安心できる。何の躊躇もなくはっちゃけられる。バンザーイ!

結論としてはクレイジーなことは買ってでもしろ、ってことだな。

まぁ、ガチチームに配属されて、女性とのタスキの受け渡しは味わえなかったのは心残り。
来年はゆるふわチームに入れてもらおう。

以上。

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投稿者: 石黒わらじろう

京都の古い民家で暮らしている。 趣味はランニングとブログと盆踊りを含むフォークダンス。 別名義で書いた小説は映画の原作として採用された。 自分で建てた小屋にて暮らしていたことがある強靭な狂人。 地球にも自分にも健康な生活がしたい。

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